ご高齢になり動きがとれなくなってしまった方、疾病が絡んで寝たきりの状態を余技なくされている方に、歯科医の方から在宅で診療をする訪問歯科診療(往診)がポピュラーになってきました。
実際は何でもできるレベルには程遠く下記のように制約がありますが、ご希望いただければ当院は応じることが可能です。まずはお電話いただき、訪問日時等を打ち合わせましょう。

私に可能な訪問診療

歯科診療といっても「訪問」がつくと、削ったり根の処置など細かい処置は患者さんの全身状態を鑑みると困難を極めます。
また、訪問させていただける日が私の休診日で用事のない空いている日に限定されますので、即時対応は無理になってしまいます。ご理解いただけますと幸いです。当院では下記の治療に対応が可能です。

  • 口腔内のお掃除、付き添いの方へのブラッシング指導
  • 入れ歯の修理や調整(修理のリクエストが一番多いです)
  • 全身状態が許す方の動揺歯の抜歯または固定

訪問歯科診療の意味と意義

私が医院を開院したのは平成5年です。それから今日に至るまで、自分でも一体どれだけの義歯(入れ歯)を作らせていただいたか…ちょっと想像できません。
また術後のメインテナンスがその予後を左右するとされる何百本ものインプラントも埋入させていただきました。生涯に渡りケアをさせていただく義務・責任が私にはあると考えております。

当時、例えば60歳だった患者さんはその後に何度か作り替えながら四半世紀の時を越えて85歳。場合によっては鬼籍に入られた方もいらっしゃるでしょうが、ご存命であっても寝たきりで動きがとれなくなっていらっしゃる方は…むしろそういう方の方が多いでしょう。

唾液の分泌量が減少し、それに伴いむし歯や歯周病が増え、口腔内のケアが疎かになる…。体重の減少等で義歯が合わなくなる方もいらっしゃるでしょう。それに対し歯科医や歯科衛生士さんが訪問して口腔ケアのお手伝いをする事の意義はとても大きいと感じています。

昨今よく取り上げられるようになった誤嚥性肺炎。これは、病気や加齢などで本来なら食道に流れるはずの食べ物や唾液が誤って気管に入り込み、お口の中の細菌も一緒に肺に入って起こる肺炎の事です。口腔内を清潔に保ち機能を発揮させることで、誤嚥性肺炎の予防にも努めましょう。

訪問診療をご希望の方はこちらからお問い合わせをいただくか、電話(0246-31-1000)でご相談ください。

今更ながらに『摂食嚥下』の重要性を思う

私が歯学部の学生だった1980年当時には、『摂食嚥下』と言う人間としての基本的な動作にスポットが当たるようなことは無かったように思います。『噛む』ことであり『咀嚼』する事にウエイトが置かれ、その後の飲み込む『嚥下』という動作にはそれほど着目されてなかったように思います。
時代が変わり国民の高齢化が促進し、私の親世代でもある多くの高齢者の皆さんが誤嚥性肺炎に罹患し、気が付けば死亡原因の上位にもランキングされる時代になりました。

国もそれを憂えてるに違いありません、2019年春に歯科医師国家試験を受験し歯科医師になった愚息が申すには、昨今の歯科医師国家試験の出題傾向は『摂食嚥下』部門が大きなウエイトを占めるようにもなってるんだそうです。
出来ることなら私自身もそのトラブルを回避出来るようでありたいと願います。
昨今では『摂食支援』という言葉も取り沙汰されるようになり、我々 口腔のスペシャリストである歯科医師が中心になって訪問歯科診療と並行して『摂食』をサポートしていこうという気運が盛り上がって来てもいます。
多くの情報や知見を得て、実践出来るように研鑽を積まねばならぬと考える昨今であります。

かかりつけ医療の担い手のひとりとして

歯科医師会から郵送されてきたのか、何処のご家庭にも配布されているものなのかも忘れてしまいましたが、「日本在宅ケアアライアンス」刊の下記の様な表題の地域包括ケアシステム構築のためのヒント集がありました。
実に丁寧に纏められていて、その中で歯科医の役割も記載されていました。私もそうありたいと思うところがありました。

私たちの街で最期まで(求められる在宅医療の姿)

“ゆりかごから墓場まで”、”むし歯予防から入れ歯まで”、年齢に左右されず、一家の子どもからお父さん、おばあちゃんの診療もし、そして訪問診療までこなす。家族をよく知っている歯科医師。

私たちの街で最期まで(求められる在宅医療の姿)

が求められているようです。困った時に頼りになる存在でありたい…そう願います。

いくつになっても口から食べる喜びを

私が”超”の付く高齢に差し掛かった時に、残念ながらフットワーク軽くはできません。そんな時に何に喜びを見出すかと問われれば「美味しい物を食したい」と答えるのではと思ったりします。
現実は、なかなかそうはいかない方々が多くいらっしゃいますが、定期的な口腔ケアのお手伝いで苦痛を軽減させることで、口から食べる喜びを享受していただけるようでありたいです。

『訪問診療』から『摂食支援』へのシフトの時代

訪問診療の主たる目的は、本来であれば在宅で歯科治療を歯科医院でのそれと同等レベルで・・・が理想的でありましょう。それがですね・・・実際にやってみますとトンでもなく大変なんです。(泣)
どうしても応急的なレベルの処置に止まってしまうことばかりであります。それでも何かしらのお役に立ちたいと考えてどうにか経口で摂食していただくにはどのようにすべきなのかという問題点を抱えながらオンライン研修受講を重ねる今日この頃であります。
幸いなことに私や家内の両親は高齢者ではありますが摂食に不自由がないので身近な例に接する機会がありません。それ故に実際に『訪問診療・摂食支援』に一生懸命に取り組んでらっしゃる歯科医に教えを請う以外になかったり致します。
やがて歯自分自身も『進む道』である高齢域・・・・考えたくは無いのですが、その日の為にも研鑽を重ねておいて損はないだろうとも考えております。

とかく『歯科』は、二大疾患であるむし歯歯周病ばかりに目が行きがちですが、本来のお口の健康は歯だけに止まらず口腔周囲の諸機能がバランス良く調和して発揮される咀嚼(そしゃく)であり嚥下(えんげ)がなされて初めて完結します。その為にナニを支援すれば有効なのかを今後も学び続けて参ります。

執筆・監修歯科医

医療法人SDC 酒井歯科医院の院長 酒井直樹

医療法人SDC 酒井歯科医院
  院長 酒井直樹

1980年 福島県立磐城高等学校卒業
1988年 東北大学歯学部卒業
1993年 酒井歯科医院開院
2020年 医療法人SDC 設立