院長のコラム

御高齢の方の歯科治療について考える

先月末にお出でになった患者さん、25年ほど前に加療させていただいた下顎前歯部4本ブリッジの動揺が顕著で抜歯を希望されておられました。拝見したところ確かに抜歯状態であり本来ならナンらの躊躇もせずに施術、その後に義歯(入れ歯)の作製へ移行・・・だったのですが、ひとつだけ大きな問題があり治療を見送らせていただきました。

御高齢・・・100歳を超える年齢でありました。
加療後に万が一のことがあれば・・・などといったことが我々歯科医も脳裏を過ります。
付き添いの方に丁重に御説明をし快く御理解いただけたので問題はナニも無かったのですが、三週間と経たないウチに朝刊折り込みの『お悔やみ情報』にその方のお名前があり、改めて御高齢の方への歯科治療の在り方を考えさせられてしまいました。

随分と前の話にはなりますが、請われて寝たきりの方の在宅での抜歯を依頼されお宅にまで伺ったことがありました。
その方の体調が調子の良い時間帯に・・・ってリクエストもあり医院の休診日(木曜日)の午前中に伺った次第。口腔内を拝見したところ、確かに崩壊した歯牙が舌に触れて痛そうではあったのですが、その方の全身状態を鑑み抜歯はせずにケアマネージャーさんに見てていただきながら尖った鋭縁部を軽く丸め痛みを回避する処置のみとしたのですが、残念ながらその方はその日の午後に亡くなったと後日伺いました。

ご家族の方が御丁寧に挨拶に来て下さって『舌の痛みから解放されて笑顔で旅立てました』ととてもありがたい労いの言葉を頂戴したのですが、万が一リクエスト通りに私が抜歯術をして居たとしたら・・・などと考えると穏やかな心持ちでは居られませんでした。

歯科医師会が長きに渡り推進する『8020運動(80歳で20本の歯を残す)』は確かに意義深いもので、私の母も義母もそれこそ『9020』もクリアしそうな勢いで認知症を含む体調不良とは無縁で居られて正しい方針なのは理解を致します。
加山雄三さんも『8527』だそうですから残存歯数と全身状態との因果関係は間違いがありませんでしょう。
厚労省も在宅での歯科訪問診療を推奨し、居宅での歯科治療は随分と普及して来た感もあります。
ただ、入れ歯の調整等はナンらの問題もなかろうかとは思いますが、麻酔下での外科処置に及んだ際に、出血の問題、全身負担への計らいは十二分に検討せねばならないのではないかという危惧を抱きます。

長く健康な歯を守り維持する姿勢は紛うことなく間違ってはいないのですが、その考えの中に100歳になった場合にどうするといった事までは想定されては居なかったんではないでしょうか?
その状況に際しての治療可否の判断は歯科医師の責任となりますでしょう。深く考えさせられる年の瀬の出来事でありました。

酒井直樹

酒井直樹

医療法人SDC 酒井歯科医院 理事長 / 院長

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