院長のコラム

TCH(歯列接触癖)ってどんなトラブル?

TCH(Tooth Contacting Habit=歯列接触癖)は、長時間、軽く歯と歯を接触させている状態のことで、様々なトラブルを引き起こす原因となる不良習癖です。ほとんどの方がお気付きではないため実に厄介なクセと言えます。

本来、上下の歯の間には2mm程度の隙間があるのが標準の状態(唇は閉じてます)です。
顎の骨は耳の手前で容易に触知も可能な顎関節でぶら下がっているため、噛むための諸筋肉に力が入っていなければ上下の歯は離れているのが自然なのです。
それが、多くの患者さんに伺ってみると、上下の歯同士が接触しているのが正しい状態と思っている方は意外に多いことに気付かされます。実際には、食事や会話などの口腔の機能時に歯は瞬間的に接触しますが、それらを1日分積算しても平均的に17~18分程度(長い方でも20分)にしかなりません。

TCHの習慣がある方は、歯ぎしりほどの強大な力は歯にかかりませんが、それでも上下の歯同士を接触させるために閉口筋と呼ばれる顎周辺の筋肉はずっと収縮した状態が続くことになります。研究によると、30分や1時間は珍しくなく、酷い方になると2~3時間も自覚の無いままに続けてしまうこともあるそうです。
その間、顎周辺の毛細血管は筋肉に押しつぶされ続け、歯を支える歯根膜が圧迫され続けることで貧血状態になってしまい、正座後の足の痺れのように、噛み合わせの違和感や知覚過敏などの感覚異常といった不快な痛みや様々な不調を引き起こしてしまうことになります。

TCHは、顎が痛む・口を開けにくい・関節音がするなどの症状を伴う顎関節症を引き起こしたり、歯周病を悪化させてしまったり、入れ歯の方であっても歯ぐきが圧迫されることで難治性の痛みを訴えたりすることが知られています。
これらの諸症状も、軽く噛んでいるだけなので御本人に自覚が乏しく、歯科医師にとっても診断が難しいものです。

まずは気が付いていただくことがとても大事です。そのためには、スマホのアラーム機能等を用いて、アラームが鳴った瞬間に自分の歯が接触しているかどうかをセルフチェックするのがオススメです。10回試みて10回とも上下の歯が接触していたらTCHの可能性が高いので、是正なさると宜しいように思います。
また、ポストイット(付箋)に「歯を離す」と書き込んで、電灯のスイッチやハンドル、炊飯器の蓋などの目に付きやすい場所にたくさん貼り、見るたびに状態をチェックするのも有効です。

TCHが急激に増えてきた背景には、スマホやパソコンなどの普及が考えられます。操作する際の姿勢の問題が原因のようです。人は、下を向く作業時や前屈みの姿勢をとると自然と顎は閉じる方向に向かいやすくなるようです。換言すれば、姿勢が悪いとTCHが常態化しやすいと言えるかもしれません。
現代人がたくさん抱えるストレスもひとつの要因だそうです。ストレスは交感神経系の活動を優位にさせ、顎に力が入りやすくなるからです。

気が付かないうちにやってしまっている不良習癖TCH。まずは気が付いていただくことが第一歩になるのかもしれませんね。

酒井直樹

酒井直樹

医療法人SDC 酒井歯科医院 理事長/院長

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