離乳期とは、「食べる機能」を獲得するトレーニング期間
離乳期は、赤ちゃんの口腔機能が「吸う」動き中心から、「噛む・まとめる・飲み込む」といった食べる動きへと段階的に発達していく重要な時期です。
こんにちは。いわき市中央台にあります 医療法人SDC 酒井歯科医院 です。
赤ちゃんが生まれ、ミルクやおっぱいを飲む時期を経て、いよいよ始まる「離乳食」。
初めてのスプーン、初めての食材──パパやママにとっても、期待と不安が入り混じる特別な時間ではないでしょうか。
「どんなメニューにしようかな?」
「ちゃんと食べてくれるかな?」
離乳期というと、どうしても「何を食べるか(栄養・メニュー)」に目が向きがちです。モチロンそれも大事ではあるのですが、実は、私たち歯科医療従事者が大切にしているのは、もう一つの視点です。

それが、「どう食べているか(お口の機能)」 という視点です。
前回のブログでは、赤ちゃんがおっぱいを飲む「哺乳期」についてお話ししました。
哺乳期のお口の発達については、下記の「赤ちゃんの『食べる力』はいつから?哺乳期の口の動きと発達の基礎」で詳しく解説していますので、宜しければ合わせてご覧ください。
今回はその次のステップである 「離乳期」 に焦点を当て、この時期に赤ちゃんのお口の中で起きている劇的な変化と、ご家庭で意識していただきたいポイントについて詳しく解説していきます。
少し長い記事になりますが、お子さんの 「一生モノの食べる力」 を育てるための大切なヒントを詰め込みました。ぜひ最後までお読みください。
離乳期とは、「食べる機能」を獲得するトレーニング期間
まずは「離乳期」という時期を、お口の発達の視点から整理してみましょう。
離乳期とは、母乳やミルクから食事へと栄養源が移行する時期ですが、口腔機能の観点から見ると、「吸う」ことから「食べる」ことへと移行する重要な発達段階と捉えることができます。

生まれたばかりの赤ちゃんは、「吸う」ことに関してはすでに完成された能力を持っています。一方で、当たり前ではあるのですが「食べる」ことについてはまだ初心者です。
離乳期とは、無意識に行っていた「吸う」動きから卒業し、意識的に舌・唇・顎を使って「食べる」という新しい技術を身につけていく、まさに トレーニング期間 なのです。

お口の中で起きている「動き」の変化
では、離乳期には具体的にどのような変化が起きているのでしょうか。
この時期の最大の特徴は、舌・顎・唇の動きが「単純」から「多様」へと変化することです。

哺乳期には、舌を前後に動かす比較的単純な運動が中心でした。ですが、離乳期になると、
- 食べ物を口に取り込む
- 舌で上あごに押し付ける
- 左右に動かしてすりつぶす
といった、より複雑で立体的な動きが求められるようになります。
また、唇の役割も大きく変わります。スプーンから食べ物を取り込む際には、上唇がしっかり下りて食べ物を捉える動きが必要です。さらに、口の中に入れた後は食べこぼさないように唇を閉じる力も求められます。
離乳期のお口の中では、これまでとはまったく違う「新しい動き」を赤ちゃんが一生懸命練習しているのです。
高度なテクニック!「咀嚼」と「嚥下」の協調
私たちが普段何気なく行っている食事ですが、実はとても高度な運動です。
「噛む(咀嚼)」
「飲み込む(嚥下)」
この二つを、正しくて絶妙なタイミングで連動させる必要があります。
離乳期には、この 「咀嚼と嚥下の協調運動」 が少しずつ育っていきます。
- 食べ物を口に取り込む(捕食)
- 口の中で食べやすい形にまとめる(食塊形成)
- ゴックンと飲み込む(嚥下)

赤ちゃんは、最初からこの流れをスムーズにできるわけではありません。最初のウチはむせてしまったり、口から出してしまったりすることもあるでしょう。
それは失敗ではなく、脳と体が新しい協調運動を学習している途中段階なのです。
「いま、とても高度なテクニックを練習している最中なんだな」・・・そんな視点で、温かく見守ってあげることが大切です。

歯科衛生士が教える!おうちでできる「観察」の極意
ここからは、ご家庭でぜひ意識していただきたい 「観察のポイント」 をお伝えします。
私たち歯科医院のスタッフが大切にしていることは、お口の中に限らず「一歩離れて、口元全体を見る」 ことです。
スプーン操作に集中すると、どうしても視線が口の中だけに向きがちですが、「食べる力」を育てるためにはもう少し広い視野が必要です。
① 食べ方(お口の動き)
- 上唇は下りてきていますか
- モグモグしている時、唇は閉じていますか
- 飲み込む際に舌が前に突き出ていませんか
動きを見ることで、食材の硬さや形が合っているかが見えてきます。
② 姿勢・環境
- 足の裏は安定していますか
- テーブルや椅子の高さは合っていますか
- 気が散る環境になっていませんか
体が安定しないと、口の動きも安定しません。
③ 保護者の関わり方
- スプーンを急かしていませんか
- 赤ちゃんが自分で口を開けるタイミングを待てていますか

「自ら食べる」動きを引き出す関わりが大切です。「吸う」から「食べる」への発達は、哺乳期から連続して起こるものです。離乳期を理解することで哺乳期の関わり方の大切さにもあらためて気づくことができます。
まとめ:食べることは生きること。その第一歩を大切に
離乳期は、「吸う」から「食べる」へと大きく成長する時期です。うまくいかないことがあっても、それは練習の途中だからこそ・・・でしょう。
ぜひ今日からは、一歩離れて お子さんのお口・姿勢・関わり方を温かく観察してみてください。
もし不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
酒井歯科医院は、いわき市のお子さんたちの 「お口の育ち」 をご家族と一緒に見守るパートナーでありたいと考えています。
執筆・監修歯科医
「食べる機能」の
育ちを支える歯科医
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会






