赤ちゃんの「食べる力」は、生まれてすぐの哺乳期から育ち始めます。 授乳の際に行われる「吸う・飲み込む・呼吸」の協調した動きは、 将来の咀嚼や発音につながる大切な土台です。 本記事では、哺乳期の口の構造や動きを、歯科医の視点でやさしく解説します。
哺乳期は「食べる力」を育てる最初のトレーニング
こんにちは。いわき市中央台にあります「医療法人SDC 酒井歯科医院」です。
生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこして、ミルクやおっぱいをあげているとき、
「ちゃんと飲めているかな?」
「この子の口の中は、今どうなっているんだろう?」
そんなふうに感じたことはありませんか?
毎日の授乳は、赤ちゃんにとって栄養をとるための大切な時間ですが、実はそれだけではありません。お口の機能を育てるための「最初のトレーニング」でもあるのです。

今回は、そんな「哺乳期(ほにゅうき)」のお口の発達について、少し専門的なお話も交えながら、できるだけやさしく解説していきます。
赤ちゃんのお口は「吸う」ための特別仕様
大人の口と赤ちゃんの口。実はその構造には、大きな違いがあることをご存知でしょうか。
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、「顎間空隙(がっかんくうげき)」という顎のすき間や、上あごの天井部分(口蓋)に「吸啜窩(きゅうてつか)」と呼ばれる小さなくぼみがあります。
ナニを隠そう、この「くぼみ」こそが母乳を上手に吸うための重要なポイントです。

赤ちゃんは、この特別な形を上手に使いながら、次のような一連の動作を行っています。
- 唇で乳房や哺乳瓶にしっかりと吸い付く
- 乳首を上あごの「くぼみ(吸啜窩)」に押し付ける
- 舌を巧みに動かして乳汁を吸い出す
こうした一連の動きによって、赤ちゃんはスムーズに母乳を飲むことができるのです。

「飲む」ことは「食べる・話す」への第一歩
私たちが日常的に行っている「食べる」という動作。私も意識したりはしてませんが、実はこれはとても高度で複雑な運動の組み合わせです。
哺乳期は、そのお口の機能発達が始まるとても重要な時期です。赤ちゃんが母乳を飲むときも、実はただ吸っているだけではありません。
- 吸啜(きゅうてつ:吸うこと)
- 嚥下(えんげ:飲み込むこと)
- 呼吸
この3つを同時に、しかも正確に協調させています。この時期に、唇・舌・顎をしっかり動かしながら飲む経験を積むことは、将来の「食べる力」の基礎づくりにつながります。

ここで培われた動きが、
- 離乳食が始まった後の咀嚼(そしゃく:噛むこと)
- おしゃべりをする時の発音
へと、自然に発展していくのです。いわば哺乳期は、お口の機能発達が始まる最初のステージと言えるでしょう。
おうちでできること:赤ちゃんの様子を観察してみましょう
では、保護者の方はどんな点に目を向けるとよいのでしょうか。哺乳期のお口の発達は、赤ちゃんの「姿勢」や、生まれつき備わっている「原始反射」の影響を大きく受けると考えられています。
今日からできることとして、まずは授乳の際に赤ちゃんの様子をそっと観察してみてください。
- 唇でおっぱいや哺乳瓶をしっかり捉えているかな?
- 舌や顎を一生懸命動かしているかな?
- どんな姿勢で飲んでいるかな?
こうした視点で「お口の育ち」を見守ることが、お子さんの健やかな成長への第一歩になります。

まとめ:お口の成長で気になることがあればご相談ください
哺乳期の「吸う」という動作は、単なる栄養補給ではありません。これから育っていく「食べる機能」・「話す機能」の土台となるとても大切なプロセスです。
当院では、虫歯やお子さんの歯並びの治療だけでなく、お子さんの「口腔機能発達(お口の機能の育ち)」についても専門的な知識に基づいたサポートを大切にしています。
- 「うちの子の飲み方はこれでいいのかな?」
- 「お口の動きが少し気になる気がする…」
そんな不安がありましたら、どうぞ遠慮なくご相談ください。お子さんの「食べる力」の始まりを一緒に温かく見守っていきましょう。

執筆・監修歯科医
お口の「育ち」を
温かく見守る歯科医
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会






