歯ぎしりや食いしばりなどの「強い噛み合わせの力(外傷性咬合)」は、それ単独では歯槽骨(歯を支える骨)を溶かすことはありません。しかし、すでに歯周病がある状態に強い力が加わると、骨の炎症が著しく悪化することが東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)の最新研究で遺伝子レベルから証明されました。つまり歯周病と強い噛み合わせの力は、単独では大きな問題にならなくても、「組み合わさると一気に危険」になるのです。歯周病治療における咬合調整(噛み合わせの調整)の科学的な有効性も、この研究によって改めて裏付けられました。
歯周病と噛み合わせ、その深い関係
こんにちは。いわき市中央台の「医療法人SDC 酒井歯科医院」です。
朝起きたときに顎が疲れていたり、ご家族から「夜中に歯ぎしりをしているよ」と言われたりしたことはありませんか? ふと気づくと、無意識のうちにグッと歯を食いしばっていることもあるかもしれませんね。
実は、こうした「過剰な噛み合わせの力」は、歯を支える土台を壊す病気「歯周病(歯周炎)」と深い関わりがあることが、最新の研究で改めて明らかになりました。
今回は、東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)の岩田隆紀教授らの研究チームが2026年3月に国際歯周病学専門誌「Journal of Clinical Periodontology」に発表した研究をもとに、噛み合わせの力が私たちのお口にどのような影響を与えるのかを、できるだけやさしくお伝えしていきます。
「強い力」だけで歯周病になるわけではない?
歯科の世界では、歯や歯ぐきに過剰な力がかかり続けている状態のことを「外傷性咬合(がいしょうせいこうごう)」と呼びます。
これまで「強い力で噛みすぎると、歯周病の直接の原因になるのではないか」と心配されることがありました。しかし今回の研究では、マウスを使った実験と最先端の遺伝子解析(トランスクリプトーム解析)によって、「外傷性咬合があるだけでは、歯を支える骨(歯槽骨)が溶けることはない」ということが、分子レベルで初めて明確に示されました。

つまり、歯ぎしりや食いしばりそのものが、直接的に歯周病を生み出す「原因」になるわけではないのです。これをお聞きになって、少し安心された方もいらっしゃるかもしれませんね。

歯周病が「ある状態」で強い力が加わると危険!
しかし、油断は禁物です。研究では同時に、とても重要な事実が明らかになりました。
それは、「すでに歯周炎(歯周病)になっているところに強い噛み合わせの力が加わると、骨の炎症が著しく強くなり、歯周病が急速に悪化してしまう」ということです。

研究では、マウスの歯肉・歯槽骨・歯根膜の遺伝子を網羅的に解析した結果、歯周病と強い力が合わさることで「TNF-α/NF-κB経路」と呼ばれる炎症シグナルが著しく活性化され、骨の代謝や炎症に関わる遺伝子の発現が大きく変化することが確認されました。
少し難しい言葉ですが、要するに「体の中で骨を溶かそうとする反応のスイッチが、一気に入ってしまう」イメージです。

この関係は、「火事(歯周病)」と「強風(噛み合わせの力)」の関係に例えることができます。
強風が吹いているだけでは、火事は起きませんよね(=強い力だけでは骨は溶けない)。しかし、すでに火の手が上がっているところに強風が吹き荒れると、火は一気に燃え広がり、家(歯周組織)を大きく壊してしまいます(=歯周病+強い力で骨破壊が加速する)。
つまり、過剰な噛み合わせの力は、歯周病を悪化させる「風(修飾因子)」として働いてしまうのです。

患者さんが今日からできること
この研究結果を踏まえて、お口の健康を守るために「今日から意識できること」をいくつかお伝えします。
1. ご自身の「噛み癖」に気づくこと
日中、パソコン作業や家事をしているときに、上下の歯がくっついていませんか? 本来、リラックスしている状態では上下の歯は数ミリ離れているのが正常です。「食いしばっていないかな?」と一度意識してみるだけでも、大きな気づきになりますよ。
2. まず歯周病のケアを最優先に(火の元を絶つ)
今回の研究が改めて示すように、強い力があっても、ベースとなる炎症(歯周病)がなければ骨への大きなダメージには繋がりにくいことが分かっています。毎日の丁寧な歯磨きでプラーク(汚れ)を落とし、炎症を防ぐことが何よりの基本です。
3. 歯科医院での「噛み合わせのチェック」
歯周病の治療では、お口のお掃除だけでなく、噛み合わせの調整(咬合調整)を行うことがあります。今回の研究により、この「噛み合わせを整えること」が歯周病治療において分子・遺伝子レベルの科学的根拠に基づく有効な治療であることが、改めて裏付けられました。

当院からのメッセージ
歯周病は、自覚症状が少ないまま静かに進行してしまうことが多い病気です。そこに無意識の「歯ぎしり」や「食いしばり」が加わると、知らず知らずのうちに症状が進んでしまうかもしれません。

医療法人SDC 酒井歯科医院では、歯ぐきの状態(歯周病の有無)はもちろんのこと、患者さんの「噛み合わせのバランス」にもしっかりと目を向けながら治療を行っています。
「最近、歯が浮いたような気がする」「噛み合わせが気になる」という方は、どうぞお気軽に当院までご相談ください。皆さまの生涯にわたる健康な笑顔のために、しっかりと寄り添い、サポートさせていただきます。

合わせてお読みください
歯周病を悪化させる「噛み合わせの力」の原因として代表的なのが、歯ぎしり(ブラキシズム)と、日中に無意識で上下の歯を触れ合わせてしまう歯列接触癖(TCH)です。どちらも自覚しにくい習癖ですが、歯周病との関係を知ったうえで、ぜひ一度ご自身の状態をチェックしてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 噛む力が強いと、歯周病の原因になりますか?
過度な噛み合わせの力(外傷性咬合)そのものが直接の歯周病の原因(骨が溶ける原因)になることはない、と東京科学大学の研究チームが2026年に発表したマウスを用いた最新のトランスクリプトーム解析(遺伝子網羅的解析)で示されています。ただし、これはあくまでもマウスを使った実験の結果であり、ヒトへの応用にはさらなる研究の積み重ねも必要とされています。
Q2. では、なぜ噛み合わせに気をつける必要があるのですか?
すでに歯周病(歯肉の炎症)がある状態で強い力がかかると、骨を溶かす炎症シグナル(TNF-α/NF-κB経路)が著しく活性化され、歯周病を大きく悪化させてしまうからです。歯周病と強い力の「組み合わせ」が危険なのです。
Q3. 「外傷性咬合」とは何ですか?
歯や歯を支える組織(歯ぐきや骨など)に対して、過剰な負担となるような異常な力がかかり続けている状態のことです。歯ぎしり・食いしばり・強い噛み癖などが原因となることがあります。
Q4. 歯周病を悪化させないためには、どうすればいいですか?
まず原因となるプラーク(汚れ)を取り除いて炎症を抑える治療が最優先です。その上で、噛み合わせのバランスを整える治療(咬合調整)を並行することが有効です。「まず火の元を絶ち、そして風を弱める」というイメージです。
Q5. 歯科医院で行う「咬合調整(噛み合わせの調整)」は本当に意味があるのですか?
はい。これまでは主に経験則に基づいて行われることもありましたが、今回の研究により、歯周病治療における咬合調整の有効性が遺伝子・分子レベルの科学的根拠によって裏付けられました。「なんとなく削る」のではなく、理論的な根拠のある治療として位置づけられています。
参考文献
Tsuchiya Y, Ohsugi Y, Hirota T, Hayashi Y, Lin P, Tsukahara Y, Iwata T, Katagiri S. Traumatic Occlusion Exacerbates Bone Resorption by Modifying Gene Expression in the Bone Tissue of Ligature-Induced Periodontitis in Mice. Journal of Clinical Periodontology. Published: 26 March 2026. DOI: 10.1111/jcpe.70112
執筆・監修歯科医
最新のエビデンスで
歯を守る
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会





