「加熱式タバコは副流煙がないから安全」というイメージが広まっていますが、東北大学大学院歯学研究科の研究により、加熱式タバコによる受動喫煙は2017年から2020年の間に約2.5倍に急増し、2020年時点で国民の約10人に1人がほぼ毎日さらされていることが世界で初めて明らかになりました。煙が見えなくても有害なエアロゾルは確かに存在し、ニコチン量は紙巻きタバコとほぼ同等のため歯周病リスクも変わりません。加熱式タバコへの乗り換えは「禁煙」ではなく、本当の意味での禁煙をお勧めします。
「加熱式タバコなら大丈夫」は大きな誤解です ―母校・東北大学歯学研究科の研究が警告―
「加熱式タバコは煙が出ないから体に優しい」「周りへの影響も少ない」・・・こうした話を患者さんから聞くことが少なくありません。アイコス・グロー・プルームテックといった製品が急速に普及し、喫煙者の間では紙巻きタバコの”健全な代替品”というイメージが根強く定着しています。
ですが、私の母校である東北大学大学院歯学研究科の研究が、そのイメージに真っ向から疑問を突きつけています。本記事では、その研究内容と、歯科医の立場からお伝えしたいことをまとめました。
東北大学歯学研究科が世界初の実態調査を発表
2022年、東北大学大学院歯学研究科の玉田雄大特別研究学生・竹内研時准教授らのグループが、国際学術誌Nicotine & Tobacco Researchに画期的な研究を発表しました。加熱式タバコによる受動喫煙の実態を一般住民レベルで追跡調査したのは、世界でこれが初めてのことです。

研究の概要
研究チームは20〜69歳の男女約5,000人を2017年から2020年にかけて毎年追跡し、加熱式タバコによる受動喫煙への曝露状況と、その社会経済的格差を調べました。
明らかになった驚くべき事実

受動喫煙の曝露割合が約2.5倍に急増
2017年の4.5%から2020年には10.8%へ急増。つまり国民の約10人に1人以上がほぼ毎日、加熱式タバコの受動喫煙にさらされていたことになります。
教育歴による格差が存在
学歴が比較的低い群では、高い群と比べて、受動喫煙への曝露リスクが約60%高いことが明らかになりました。
新たな社会問題として台頭
研究チームは「加熱式タバコの受動喫煙は、新たな社会問題として台頭し始めている」と結論づけています。
📄 参照:東北大学プレスリリース「加熱式たばこによる受動喫煙への曝露が急激に増加」(2022年4月14日)
📄 論文:Nicotine & Tobacco Research — Secondhand Aerosol Exposure From Heated Tobacco Products and Its Socioeconomic Inequalities in Japan: The JASTIS Study 2017–2020
「副流煙がない」≠「受動喫煙がない」
加熱式タバコは、タバコ葉を加熱して蒸気(エアロゾル)を発生させる仕組みです。燃焼を伴わないため副流煙は発生しません。しかし、呼気や本体から漏れ出るエアロゾルにはニコチンや有害物質が含まれており、受動喫煙は厳然として起こります。
加熱式タバコを使用している家族と同居する人の尿中から、ニコチン代謝物(コチニン)が検出されたという報告もあります。「煙が見えない=安全」ではないのです。
加熱式タバコと口の健康:歯科医として気になること
ニコチン量はほぼ同等

加熱式タバコに含まれるニコチンの量は、紙巻きタバコとほぼ同量です。ニコチンには歯周組織の血流を低下させる作用があり、歯周病の進行リスクを高めることが知られています。「加熱式に変えたから禁煙できた」と思うのは誤解で、ニコチン依存状態は変わりません。
有害物質は「ゼロ」ではない
燃焼による発がん性物質(タールなど)は大幅に減少しますが、ゼロではありません。アクロレインやホルムアルデヒドなど、口腔粘膜や唾液腺に影響を及ぼしうる物質の検出も報告されています。
受動喫煙で子どもも被害を受ける
「部屋の中で加熱式を吸っているから子どもは大丈夫」という考え方も危険です。小さなお子さんがスティックを誤飲する事故も起きていますし、室内で吸えば壁・床・家具にも有害物質が付着します(サードハンドスモーク)。

法律上の「特別扱い」が逆に危険を招いている

2020年4月に全面施行された改正健康増進法では、紙巻きタバコは職場・公共の場での屋内喫煙が原則禁止となりました。一方で加熱式タバコは「加熱式タバコ専用喫煙室」内での飲食が認められるなど、紙巻きタバコとは異なる特別扱いとなっています。この規制上の「ゆるさ」が「加熱式は安全」というイメージをさらに強化し、受動喫煙の機会を増やしている側面は否定できません。
歯科医院からのお願い
私たち歯科医師は、口の中を診ることで喫煙の影響を最前線で目にしています。歯ぐきの黒ずみ、歯周ポケットの深化、骨の吸収・・・こうした変化は「加熱式」であっても起こりえます。
加熱式タバコに乗り換えることは「禁煙」ではありません。本当の禁煙に向けて、かかりつけの歯科医や禁煙外来にご相談されることを強くお勧めします。当院でも禁煙に関するご相談を承っておりますので、お気軽にお声がけください。
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「加熱式なら歯周病にならない」は誤解です。ニコチンが歯周組織に与える影響を詳しく解説しています。
紙巻きタバコ・加熱式タバコを問わず、喫煙が口腔全体に及ぼすリスクをまとめて解説しています。
よくあるご質問
Q. 加熱式タバコは紙巻きタバコより体に優しいのですか?
A. 燃焼による発がん性物質(タール)は大幅に減少しますが、ニコチン量はほぼ同等で、有害なエアロゾルも発生します。長期的な健康影響はまだ研究途上であり、「安全」とは言い切れません。
Q. 加熱式タバコでも受動喫煙は起こりますか?
A. はい、起こります。副流煙はないものの、使用者の呼気や本体から漏れ出るエアロゾルにはニコチンや有害物質が含まれています。東北大学の研究では、2020年時点で国民の約10人に1人がほぼ毎日、加熱式タバコの受動喫煙にさらされていることが明らかになっています。
Q. 加熱式タバコに替えれば歯周病のリスクは下がりますか?
A. 下がりません。歯周病リスクを高める主な原因はニコチンによる歯周組織への血流低下ですが、加熱式タバコのニコチン含有量は紙巻きタバコとほぼ同量です。歯周病予防の観点からは、完全な禁煙が必要です。
Q. 加熱式タバコへの乗り換えは禁煙になりますか?
A. なりません。ニコチン依存状態は変わらないため、医学的には禁煙とは見なされません。本当の禁煙を目指す場合は、禁煙外来やかかりつけ歯科医にご相談ください。
Q. 子どもがいる家庭で加熱式タバコを使うのは問題ありませんか?
A. 問題があります。室内で使用すると壁・床・家具に有害物質が付着するサードハンドスモークが生じるほか、スティックの乳幼児による誤飲事故も報告されています。子どものいる環境での使用は避けるべきです。
📚 参考資料
- 東北大学大学院歯学研究科プレスリリース(2022年4月14日)
- Nicotine & Tobacco Research — Secondhand Aerosol Exposure From Heated Tobacco Products and Its Socioeconomic Inequalities in Japan: The JASTIS Study 2017–2020
- 厚生労働省「たばこと健康に関する情報ページ」
- 国立がん研究センター「加熱式たばこ」
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