「もう、この歯は抜くしかないですね・・・」
重度の歯周病と診断された患者さんにとって、これは最も聞きたくない言葉かもしれません。 歯周病の進行によって、歯を支える大切な骨(歯槽骨)が溶かされてしまった場合、これまでは歯を抜くという選択しか残されていないケースも少なくありませんでした。
しかし、歯科医療の進歩により、失われた歯周組織を、特殊な材料を使って再生させる「歯周組織再生療法」という選択肢が生まれました。 この記事では、「抜歯しかない」とあきらめかけている方に希望となる、この先進的な治療法について、その仕組みから種類・治療の流れまで、分かりやすく解説していきます。

歯周組織再生療法とは? ― 歯の「土台」を再建する治療
歯周組織再生療法をひと言で言うと、歯周病によって失われた「歯の土台(歯槽骨など)」を、ご自身の治癒能力を最大限に引き出すことで、もう一度作り直す治療法です。
歯周病が進行すると、歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)が深くなり、その中で歯周病菌が歯槽骨を溶かしていきます。通常の歯周病治療(スケーリングなど)で菌を取り除き炎症を抑えることはできますが、一度溶けてしまった骨は、自然には元に戻りません。

そこで、歯周外科治療の際に特殊な「薬」や「膜」を用いることで、骨が再生するためのスペースを確保し、細胞の増殖を促すことで歯の土台を再建する・・・・それが、歯周組織再生療法です。
歯科医院で行っている主な歯周組織再生療法
歯科医院では、患者さんのお口の状態や骨の失われ方に応じて、主に2つの再生療法を使い分けています。
① GTR法(組織誘導再生法)
GTR法は、「メンブレン」と呼ばれる特殊な膜を歯の根の周りに設置する方法です。
GTR法の仕組み
歯ぐきを切開し、歯の根の周りを綺麗に清掃した後、メンブレンで骨を失った部分を覆います。 なぜ膜で覆うのかというと、歯ぐきが治癒するスピードは、骨が再生するスピードよりもずっと速いからです。何もしないと、骨が再生すべきスペースに、歯ぐきの組織が先に入り込んでしまいます。 メンブレンという「バリア」を設置することで、歯ぐきの侵入を防ぎ、その内側で骨の細胞だけがじっくりと増殖できる環境を整えるのです。
② エムドゲイン®ゲル法
エムドゲイン®ゲル法は、「エムドゲイン®・ゲル」という、ブタの歯胚(歯の赤ちゃん)から抽出した特殊なたんぱく質を主成分とする薬剤を、歯の根の表面に塗布する方法です。
エムドゲイン®ゲル法の仕組み
このエムドゲイン®・ゲルに含まれるたんぱく質は、私たちが子どもの頃、永久歯が生えてくるときに歯の根の周りの組織(セメント質や歯槽骨)が作られるプロセスを再現する働きがあります。 歯の根にこのゲルを塗布することで、まるで歯がもう一度生えてくるときのように失われた歯周組織の再生を促すのです。

治療の流れと注意点
歯周組織再生療法は全ての症例に適用できるわけではありません。実際問題として症例は限定的でありますし、適応症例の方が少ないというのが実情でもあります。また、治療の成功には、術後の丁寧なケアが必要不可欠です。
治療の基本的な流れ
① 精密検査と診断
歯周ポケットの深さ、レントゲンでの骨の状態などを詳細に検査し、再生療法が適用可能かを診断します。
② 歯周基本治療
まずは、スケーリング(いわゆる歯のお掃除)などで、長い期間をかけてお口の中から歯周病菌を可能な限り減らし歯ぐきの炎症を抑え続けます。御自身のブラッシングによる口腔ケアが難しい方は対象外になります。
③ 歯周外科手術と再生療法
歯ぐきを切開し、歯の根を徹底的に清掃した後、前述のGTR法またはエムドゲイン®ゲル法を実施します。

④ 抜糸・消毒
手術から約1〜2週間後に抜糸を行います。
⑤ メインテナンス
治療後は、再生した組織が安定するまで定期的な検診とプロフェッショナルケアが非常に重要になります。ご自宅での丁寧なブラッシングも治療の成否を大きく左右します。
この治療は、あくまでご自身の治癒能力を引き出す「お手伝い」です。治療の成功率を高めるためには、患者さんご自身の「歯を守りたい」という強い意志と日々の丁寧なセルフケアが何よりも大切になります。
高度な技術を要する専門的な治療です
歯周組織再生療法は、歯周外科手術を伴う非常にデリケートで高度な技術を要する治療法です。そのため、全ての歯科医院で受けられるわけではありません。
当院でも、院長が十分な経験と技術をもって取り組み対応は可能ですが、多くの患者さんの一般の治療にどうしても時間を割かれてしまうといった現状を鑑みて、患者さんのお口の状態や骨の失われ方が極めて複雑な場合などは特により万全を期すべきであると判断せざる終えないことが多いので、連携している地域の専門医療機関にご紹介することばかりです。
具体的には、地元の医療センター・口腔外科や、郡山市の奥羽大学歯学部附属病院など、私たちが信頼する専門医と密に連携し、患者さんにとって最善・最適な治療が受けられる体制を整えています。
大切なのは、術者のこだわりよりも、患者さんの歯が長期的に安定し確実に守られることです。どうぞ安心してまずはご相談ください。

あきらめる前にご相談ください
歯周組織再生療法は、進行した歯周病に対する非常に有効な治療選択肢の一つです。 もし、他院で「抜歯が必要です」と診断された方でも、お口の状態によってはご自身の歯を残せる可能性があります。
まずは、ご自身の歯がどのような状態なのかを正確に知ることから始めてみませんか。適応症か否かの判断をさせていただきます。
当院では、患者さん一人ひとりに最適な治療法を一緒に考えていきたいと思っています。
執筆・監修歯科医
歯を残す選択肢を
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理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会