こんにちは。いわき市中央台の酒井歯科医院です。
歯科医療にとって大きなニュース
2025年11月、歯科医療にとって大きなニュースが発表されました。
これまで自費診療が中心だった「3Dプリンターで作る総義歯(プリントデンチャー)」が、ついに2025年12月1日から保険で作れるようになることが決まりました。

「3Dプリント義歯ってなに?」、「これまでの入れ歯とどう違うの?」という患者さんも多かろうかと思います。
今回の記事では、そうした疑問にわかりやすくお答えしていきます。
この記事でわかること
3Dプリント総義歯とは?
3Dプリント総義歯は、お口の中をスキャンして得たデータをもとに、 「液槽光重合(SLA方式)」という精密な3Dプリンターで形を作る新しいタイプの総義歯です。
従来のように手作業でロウ義歯を作り上げる方法とは違い、デジタル設計 → 3D造形 → 仕上げというデジタル工程で進むため、より精密で安定した義歯が短期間で作れるのが特徴です。

保険適用はいつから?
2025年12月1日から、全国で保険適用が始まります。
今回保険で認められたのは、SLA方式で製作された総義歯に限定されています。まずは安全性と実績がある方式から導入され、今後さらに広がっていく可能性があります。

患者さんの負担額(見込み)
3Dプリント総義歯の保険点数は従来のレジン床総義歯と同じになります。
● 3割負担の場合(上下総義歯) → 約15,000円前後
ここに人工歯代や調整料が加わるため、最終的には20,000円台後半程度になる見込みです。デジタル技術を用いた精密な義歯が、これまでと同じ費用で作れるようになるのはとても大きな進歩です。

どんな方が対象?(適用範囲)
スタート時点では、対象が少し限定されています。
● 保険適用となる方
・上下ともに1本も歯がない「無歯顎」の方 ・上下同時に総義歯を新しく作るケースのみ
● 現時点で保険外となるケース
・部分入れ歯(パーシャルデンチャー)
・片顎だけの総義歯
まずは総義歯から導入し、実績を積んだ上で将来的に部分義歯にも広がっていくと予想されています。

3Dプリント義歯のメリット
① 短期間で仕上がる
デジタル工程が多いため、従来よりもスムーズに作製できます。
② 万が一壊れても作り直しが早い
設計データが保存されるため、「前と同じ義歯をスピーディーに再製作」することができます。
③ 精密で質が安定している
SLA方式は高い精度での造形が可能なため、フィット感の良い総義歯が作りやすいという特徴があります。
④ データが残るので安心
義歯の設計情報がデジタル保存されるため、調整・修理・再製作などがスムーズになり長期的にも安心です。
【比較表】従来の総義歯と3Dプリント総義歯
| 項目 | 従来の総義歯 | 3Dプリント総義歯 |
|---|---|---|
| 製作方法 | 手作業中心 | CAD設計+3Dプリンター |
| 製作スピード | 比較的時間がかかる | 短期間で製作可能 |
| 精度 | 個々の技工操作に左右されやすい | 安定した品質で再現性が高い |
| 再製作 | 再度型取りが必要 | データ保存で迅速対応 |
| 費用 | 保険適用 | 同じ点数で保険適用 |
今後どうなる?将来の展望
今回の保険収載は、デジタル歯科の大きな転換点となりました。今後はさらに…
- 部分義歯への適用拡大
- 材料や装置の改良
- より耐久性の高いデジタル義歯の普及
- 全国的なデジタル補綴の広がり
新しい技術がますます身近になり、より精密で使い心地の良い義歯を提供できる未来が期待されています。
まとめ
2025年12月から、3Dプリント総義歯が保険で作れるようになります。
従来と同じ費用で、より精密で再現性の高い義歯をお作りできるようになるのは、とても大きなメリットです。
入れ歯でお悩みの方、そろそろ作り替えをご検討の方は、場合によっては選択肢の一つに入るようになるのかもしれませんね。まずはご相談ください。
ただし・・・・
ただし、新しい技術であるがゆえに、いくつか注意しておきたい点もあります。
技術的な問題
まず、総義歯の「ピンク色の床(しょう)」の部分と「白い人工歯」の部分は、3Dプリント後に接着して仕上げる構造となっています。 そのため、従来の一体重合成形の義歯と比べると、その接着部分が外れやすいリスクが指摘されています。
審美的な問題
また、その人工歯なのですが、目下のところは単色しかないようで、わざとらしい白っぽさになってしまうようです。従来の総義歯等の作製時には、高齢期の方に対してはそれなりに色調的に深みのある人工歯を使うケースが多いのですが、その点が今後の課題になるようです。
試適が出来ない?
また、従来の義歯では、途中の段階で「試適(してき)」といって、実際にお口の中でかみ合わせや見た目を確認しながら調整できましたが、3Dプリント総義歯では製作工程がデジタル化されているため 途中での微調整(ちょっとした手直し)ができない場合があるという点も新しいチャレンジになります。
こうした点は、今後のデータ蓄積や技術改良によってより改善されていくと思われますが、現時点ではまだ未知の部分もあります。 当院としても、患者さんにとって安心で確実な治療をご提供するため、しばらくは最新情報を注意深く見守りつつ安全性と安定性を確認しながら導入を検討していく方針です。
執筆・監修歯科医
お口の未来を
デジタル技術で支える
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会






