はじめに:「歯医者さんでの治療」だけでは不十分です
前のページでご紹介した「プレオルソ」などの装置は、お子さんの顎の成長を正しい方向へと導くための非常に優れた「補助輪」です。

ですが、自転車に乗る練習でいつかは補助輪を外さなければならないように、最終的にお子さんのお口の機能を生涯にわたって支えるのはご家庭での日々の「生活習慣」という力強い“筋肉”なのです。
この記事では、専門的な治療と並行して保護者の皆様に、是非ご家庭で実践していただきたいお子さんの健やかな成長を支える3つの大切な習慣についてお話しします。
①「食べる」習慣 ― “噛む力”を育てる食事
現代の食生活は、柔らかく食べやすいものに溢れています。ただ、その「食べやすさ」が逆にお子さんの顎の成長を妨げてしまっているかもしれません。「噛む」という最高のトレーニングの機会を毎日の食卓から作ってあげましょう。
✅ 食材選びのヒント:「まごわやさしい」を合言葉に
食物繊維が豊富な昔ながらの和食の食材を意識して取り入れてみましょう。
ま(豆類)、ご(ごま)、わ(わかめなど海藻類)、や(野菜、特にごぼうやレンコンなどの根菜)、さ(魚、特に小魚や干物)、し(しいたけなどきのこ類)、い(いも類)

✅ 調理法のヒント
- 食材は、いつもより少し「大きめ」・「厚め」に切る。
- 加熱時間を少し短めにして野菜などの歯ごたえを残す。
- ハンバーグに、刻んだレンコンを混ぜ込むなど食感のアクセントを加える。

✅ 食べ方のヒント
テレビやスマートフォンを見ながらの「ながら食い」は、噛むことへの意識を散漫にさせ丸飲みの原因になります。食事の時間は、家族で食卓を囲み、会話を楽しみながら「よく噛むこと」を親子で一緒に意識する楽しい時間にしてあげてください。
②「姿勢」の習慣 ― 正しい姿勢が正しい噛み合わせを育てる
意外に思われるかもしれませんが、食事の時の「姿勢」も顎の成長や歯並びに非常に大きな影響を与えます。
✅ 足は床にしっかりと
お子さんが、大人用の高い椅子に座り足をブラブラさせた状態で食事をしていませんか? 足が、床や椅子の足置きにしっかりと着いていないと、噛む時に正しい力が入らず姿勢も崩れやすくなります。
✅ テーブルと椅子の高さを合わせる
テーブルが高すぎたり低すぎたりしても不自然な姿勢での食事となり、顎の正しい成長を妨げる原因になります。お子さんの成長に合わせて、テーブルと椅子の高さを適切に調整してあげてください。
③「癖」の習慣 ― 歯並びを壊す無意識の力に気づく
お子さんが、無意識に行っているささいな「癖」。それが、毎日、何時間も歯並びを歪ませる強力な「矯正装置」として働いてしまっている可能性があります。
✅ 指しゃぶり
指を吸う力が上の前歯を前方に押し出し(出っ歯)、下の前歯を内側に倒しこんでしまいます。3歳を過ぎても続く場合は注意が必要です。


✅ 唇を噛む吸う癖
下唇を噛む癖は「出っ歯」に、上唇を吸う癖は「受け口」の原因となります。


✅ 頬杖(ほおづえ)
片側から持続的に顎に力がかかるため、顔の歪みや噛み合わせのズレを引き起こす原因となります。

これらの癖に気づいたら「ダメ!」と強く叱るのではなく、「どうしてその癖が出ちゃうのかな?」とその背景にあるお子さんの不安な気持ちにも寄り添ってあげることが大切です。私たち専門家も、その改善のための具体的なアドバイスをさせていただきます。
最高の治療は、ご家庭と歯科医院の「二人三脚」です
私たちが行う専門的な治療は、あくまで、お子さんの健やかな成長の「きっかけ」を作るお手伝いです。その効果を最大限に引き出し確かなものにするのは、毎日のご家庭での温かいサポートなのかもしれません。
お子さんの輝く未来の笑顔のために・・・私たちと最高の「二人三脚」を組んでみませんか。

執筆・監修歯科医
最高の治療は
毎日の暮らしの中にある
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会