「よく噛んで食べなさい」― その“本当の理由”、ご存じですか?
子どもの頃、親から「よく噛んで食べなさい」と言われた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。でも、なぜ「噛むこと」がそれほどまでに大切なのか、その具体的な理由までを意識している方は意外と少ないかもしれません。
よく噛むことは単なる行儀作法ではありません。それは、お口の健康はもちろん、脳の発達や肥満の防止、ひいては全身の健康にまで影響を及ぼす、私たちが毎日できる最も簡単で最も効果的な健康法なのです。

この記事では、昔から伝わる有名な標語「卑弥呼の歯がいーぜ」を紐解きながら、噛むことがもたらす素晴らしいメリットと、今日からすぐに実践できる「噛む力」を鍛えるための食事のヒントを、歯科医師の視点から詳しく解説します。
噛むことの8大効果「卑弥呼の歯がいーぜ」
「卑弥呼の歯がいーぜ」とは、噛むことのメリットを、語呂合わせで覚えられるようにした素晴らしい標語です。それぞれの文字が、驚くべき健康効果を表しています。
① ひ:肥満を防ぐ
よく噛むと、脳の満腹中枢が刺激され、少ない食事量でも満腹感を得やすくなります。早食いを防ぎ、食べ過ぎを抑制することで肥満の予防に繋がります。
② み:味覚の発達
食べ物を唾液としっかり混ぜ合わせることで、素材本来の味を深く味わうことができます。味覚が豊かになり食事がもっと楽しくなります。
③ こ:言葉の発音がはっきり
噛むことで、お口周りの筋肉(口輪筋や舌)が鍛えられます。これにより、言葉をはっきりと発音できるようになりコミュニケーションが円滑になります。
④ の:脳の発達を促す
噛むという行為は、脳への血流を増やし脳細胞を活性化させます。お子さんの脳の発達を促すだけでなく高齢の方の認知症予防にも効果が期待されています。
⑤ は:歯の病気を防ぐ
よく噛むと唾液がたくさん分泌されます。この唾液が、お口の中の汚れを洗い流し(自浄作用)、初期の虫歯を修復してくれる(再石灰化作用)ため虫歯や歯周病のリスクを減らします。
⑥ が:がんを防ぐ
唾液に含まれる酵素「ペルオキシダーゼ」には、食品に含まれる一部の発がん性物質の発がん作用を抑制する効果があると言われています。
⑦ いー:胃腸の働きを快調に
よく噛むことで食べ物が細かく砕かれ、唾液の消化酵素と混ざり合うため、胃腸での消化・吸収がスムーズになります。胃腸への負担を軽減します。
⑧ ぜ:全身の体力が向上
「歯を食いしばる」という言葉があるように、しっかりと噛みしめる力は全身の筋力や瞬発力の発揮に不可欠です。スポーツや日常生活でのパフォーマンス向上にも繋がります。

今日から始める!「噛みごたえ」を食卓にプラスするヒント
「噛む力」を鍛えるために特別なトレーニングは必要ありません。毎日の食事にほんの少しの工夫を加えるだけで十分です。
食材選びのヒント
食物繊維が豊富な、昔ながらの「まごわやさしい」食材を意識してみましょう。
ま(豆類)、ご(ごま)、わ(わかめなど海藻類)、や(野菜、特にごぼうやレンコンなどの根菜)、さ(魚、特に小魚や干物)、し(しいたけなどきのこ類)、い(いも類)

調理法のヒント
- 食材は、いつもより少し「大きめ」・「厚め」に切る。
- 加熱時間を少し短めにして、野菜などの歯ごたえを残す。
- 水分を少なくして、煮込みすぎないようにする。
食べ方のヒント
- 一口につき、まずは「30回」を目標に噛んでみる。
- テレビやスマートフォンを見ながらの「ながら食い」をやめ、食事に集中する。
- 箸置きを使い、一口ごとに箸を置いて噛むことに意識を向ける。
「噛む力」は一生涯の財産です
「噛む」という、当たり前のようで実は非常に奥が深いこの行為。それは、私たちの心と体の健康を支えるかけがえのない土台です。

もし、歯が痛くて噛めない、入れ歯が合わなくて噛めない、といったお悩みがあれば、それは体全体からのSOSサインかもしれません。噛む力を取り戻し、生涯にわたって食事と人生を楽しむために。ぜひ、私たち歯科医院にご相談ください。
執筆・監修歯科医
よく噛み、よく食べ
よく生きるために
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会