はじめに:「物忘れ」の原因がお口の中に潜んでいるとしたら・・・
「最近、物忘れが多くなった気がする・・・」
年齢を重ねるにつれて誰しもが抱える認知機能への不安。その原因の一つとして、運動不足や食生活などがよく挙げられますが、もし、そのリスク因子が、毎日お世話になっている「お口の中」に潜んでいるとしたら・・・信じられますでしょうか。

近年、「歯周病」と「アルツハイマー型認知症」という、一見すると全く関係のない2つの病気の間に非常に深刻な関連性があることを示唆する研究結果が、世界中で次々と報告されています。
この記事では、歯周病菌がどのようにして脳にまで影響を及ぼすのか、その驚くべきメカニズムと私たちにできる最も効果的な予防法について、最新の知見を交えながら分かりやすく解説していきます。

衝撃的な発見 ― アルツハイマー病患者の脳内から「歯周病菌」
この関連性が、世界的に大きな注目を集めるきっかけとなったのが、日本の九州大学などが行った画期的な研究です。
アルツハイマー病で亡くなった方の脳を調べてみたら・・・
研究チームが、アルツハイマー病で亡くなった方の脳組織を詳細に調べたところ、なんと歯周病の最も代表的な原因菌である「Pg菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)」が高い頻度で検出されたのです。
さらに、Pg菌が産生する毒素が、脳内に蓄積する異常なたんぱく質「アミロイドβ(ベータ)」を増加させ、脳の神経細胞を死滅させる(=認知症を悪化させる)という直接的なメカニズムまで突き止められました。

つまり、歯周病菌が歯ぐきの血管から血流に乗って体内を巡り、脳にまで到達し、アルツハイマー病の発症や進行の引き金になっている可能性が強く示唆されたのです。
歯周病が脳の「防御システム」を破壊する
私たちの脳には、「血液脳関門」という血液中の有害物質が簡単に入り込めないようにする非常に強力なバリア機能が備わっています。しかし、歯周病菌は、この鉄壁の防御システムすらも巧みに突破してしまうと考えられています。

歯ぐきの「炎症」が全身の血管を蝕む
歯周病は、歯ぐきが常に炎症を起こしている状態です。この慢性的な炎症によって生み出される「炎症性物質」が血流に乗って全身を巡り、血管の壁を傷つけ、脳のバリア機能をもろくしてしまいます。そして、その隙間から歯周病菌やその毒素が脳内へと侵入してしまうのです。
「噛む力」の低下も認知症のリスクを高める
歯周病が進行すると、歯を支える骨が溶け最終的に歯が抜けてしまいます。この「噛む」という機能の喪失もまた、認知症のリスクを高めることが分かっています。
以前の記事でも詳しく解説しましたが、よく噛むことは脳への血流を増やし、脳細胞を活性化させる最も簡単な脳のトレーニングです。歯を失い、噛む刺激が脳に伝わらなくなることが認知機能の低下を招く大きな一因となります。
未来の脳を守る最も確実な方法
アルツハイマー病の根本的な治療法は、まだ確立されていません。ですが、そのリスクを軽減するために私たち歯科医院で今日からすぐに始められる非常に効果的な方法があります。
それは、徹底的な歯周病のコントロールです。
歯周病の原因は、歯垢(プラーク)とはっきりしています。ご自宅での丁寧な歯磨きはもちろん、ご自身では取り除けない歯石やバイオフィルムを、定期的に歯科医院で除去(PMTC)することで、お口の中から歯周病菌を可能な限り減らし脳へと続くリスクの根源を断ち切ることができるのです。

歯周病の予防と管理は、もはやお口の中だけの問題ではありません。それは、あなたの、そしてあなたの大切なご家族の未来の記憶と尊厳を守るための、最も身近で最も確実な投資です。ぜひ、私たちと一緒に始めてみませんか。
執筆・監修歯科医
歯を守ることは
脳の健康を守ること
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会