その「シュッとした顎」に、将来のリスクが隠れていませんか?
「最近のお子さんは、みんな小顔で可愛らしい顔立ちね」
日々の診療の中でも、そう感じることがよくあります。しかし、私たち歯科医師は、そのシャープで小さな顎に、将来の歯並びや、全身の健康にまで影響を及ぼすリスクが隠れている可能性を見ています。
柔らかいものばかりを食べる現代の食生活や、無意識の習慣。それらが、お子さんたちの健やかな顎の成長を、知らず知らずのうちに妨げているのです。

この記事では、なぜ現代の子どもたちに「顎が小さい」子が増えているのか、それがどんな問題を引き起こすのか、そして、大切なお子さんの未来のために、ご家庭と歯科医院で何ができるのかを詳しく解説していきます。
なぜ? 現代の子どもに「顎が小さい」子が増えている2大要因
顎の骨は、ただ自然に大きくなるわけではありません。適切な「刺激」が加わることで健全に発達していきます。現代の子どもたちは、その刺激が圧倒的に不足しがちです。
① 「噛む」回数の激減
ハンバーグ、パスタ、オムライス・・・現代の食卓には、柔らかくて食べやすい、美味しいものが溢れています。しかしその反面、昔の食事に比べて食べ物を「噛む」回数は劇的に減りました。
顎の骨も全身の筋肉と同じです。使わなければ鍛えられません。噛むというトレーニングが不足することで、顎が本来の大きさにまで成長できないのです。
② 「口呼吸」の習慣化
もう一つの大きな原因が、「口呼吸」です。本来、人間の呼吸は「鼻呼吸」が基本です。
口を閉じ、鼻で呼吸していると、舌が自然と上顎にスポットされます。この舌の位置が、上顎を内側から押し広げ歯が綺麗に並ぶためのスペースを作る、天然の「矯正装置」の役割を果たしてくれるのです。
しかし、アレルギー性鼻炎や、癖によって口で呼吸する「口呼吸」が習慣化すると、舌の位置が下がり(低位舌)、この内側からの力が加わりません。その結果、上顎のアーチが狭くなり、歯が並ぶスペースが不足しガタガタの歯並び(叢生)の原因となります。


「顎が小さい」が引き起こす見た目以上の深刻な問題
顎が十分に発達しないと、単に歯並びが悪くなるだけではありません。全身の健康にまで、様々な悪影響が及ぶ可能性があります。
① 歯並びの乱れ(叢生・乱杭歯)
最も分かりやすい問題です。顎という「駐車場」が狭いため、後から生えてくる永久歯という「自動車」がまっすぐに駐車できなくなってしまいます。これにより、見た目の問題だけでなく歯磨きがしにくく虫歯や歯周病のリスクが高まります。


② 顔つきの変化(アデノイド様顔貌)
口呼吸が長く続くと、いつもお口がポカンと開いていたり、下顎が後退して二重顎のように見えたり、どこか締まりのないぼんやりとした表情(アデノイド様顔貌)になってしまうことがあります。

③ 全身の健康への影響
口呼吸は、鼻という高性能なフィルターを通さずに細菌やウイルスを直接体内に取り込んでしまうため、風邪やアレルギー性疾患にかかりやすくなります。また、睡眠中のいびきや、浅い眠りの原因となり、日中の集中力の低下に繋がることも指摘されています。
お子さんの未来のために、ご家庭と歯科医院でできること
ご安心ください。顎の成長期にあるお子さん(5~9歳)であれば、今からでも適切な対策を講じることで健全な発育を後押しすることができます。
ご家庭でできること
「噛みごたえ」を食卓に
野菜を少し大きめに切る、きのこや海藻、小魚などをメニューに加えるなど、少しだけ「噛む回数」を意識した食事を心がけてみましょう。
鼻呼吸への意識づけ
お口をポカンと開けていることに気づいたら、「お口を閉じようね」と優しく声をかけてあげるだけでも大きな一歩です。
歯科医院でできること:「小児予防矯正」
当院では、本格的な矯正(Ⅱ期矯正)が必要になる前に、顎の成長を正しい方向へ導く「小児予防矯正(咬合育成)」に力を入れています。
これは、取り外しのできるマウスピース型の装置(プレオルソ)を使い、お口周りの筋肉のバランスを整え、舌を正しい位置に導くことで、お子さん自身が持つ「成長する力」を最大限に引き出す治療法です。
お子さんの健やかな成長と、輝く未来のために。少しでも気になることがあれば、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
執筆・監修歯科医
お子さんの未来は
お口の成長から
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会