骨粗しょう症は全身の骨密度が低下する病気ですが、歯を支える顎の骨(歯槽骨)も同様にもろくなるため、歯周病の進行が早まり歯を失うリスクが高まることが知られています。また、骨粗しょう症の治療薬(ビスフォスフォネート製剤・デノスマブなど)を使用中の方は、抜歯などの歯科処置の前に必ず歯科医師へお申し出いただく必要があります。この記事では、骨と歯の関係・治療薬の注意点・歯と骨を両方守る方法を、歯科医師がわかりやすく解説します。
「骨の健康」は「お口の健康」と深く関わっています
「骨粗しょう症(こつそしょうしょう)」とは、骨を壊す「破骨細胞」と骨を作る「骨芽細胞」のバランスが崩れ、全身の骨密度が低下してしまう病気です。日本では推定1,280万人が罹患しており、特に閉経後の女性や70代以上の高齢者に多く見られます。
自覚症状がほとんどないまま進行するため「沈黙の病気」とも呼ばれており、骨密度検査を受けて初めて気づく方も少なくありません。
💡 骨粗しょう症と診断される基準
骨密度が若年成人(20〜44歳)の平均値の70%未満になると骨粗しょう症と診断されます。70〜80%の範囲は「骨減少症」と呼ばれ、骨粗しょう症の予備軍にあたります。

骨粗しょう症が「歯が抜ける原因」になるしくみ
歯周病が進行すると、歯を支える土台である「歯槽骨(しそうこつ)」という顎の骨が溶けて、最終的に歯が抜けてしまいます。

骨粗しょう症は全身の骨密度を低下させ骨をスカスカにしてしまう病気です。お口の中にある歯槽骨も当然、その影響を受けます。

歯槽骨の密度が低下すると、歯周病菌による攻撃への抵抗力が弱まります。その結果、歯周病がそれほど進行していなくても、骨の破壊が通常より早く・深刻に進んでしまいます。最終的には歯がグラつき、歯を失うリスクが高まるのです。
骨粗しょう症と歯周病の「悪循環」のメカニズム
① 骨粗しょう症 → 歯槽骨の密度が低下
全身の骨密度低下は、歯を支える顎の骨(歯槽骨)にも同様に起こります。骨がもろくなることで、歯周病菌の攻撃に対する抵抗力が弱まります。
② 歯周病 → 歯槽骨をさらに破壊
歯周病菌は歯槽骨を直接破壊します。もともと密度が低くなっている骨は、さらに急速に溶けやすくなります。
③ 歯周病の炎症 → 骨粗しょう症を悪化させる可能性
近年の研究では、歯周病による慢性的な炎症が骨全体の代謝にも悪影響を与え、骨粗しょう症を進行させる可能性も指摘されています。骨粗しょう症と歯周病は、互いに悪化させ合う「双方向の関係」にあるといえます。
⚠️ こんな症状は要注意
骨粗しょう症の方は、歯周病の自覚症状が出る前から骨の吸収が進んでいる場合があります。「歯がぐらつく」「歯茎が下がってきた気がする」と感じたら、早めに歯科医院を受診しましょう。

歯科医師への申告が重要なお薬の話
骨粗しょう症の治療を受けている、あるいは過去に受けていた方は、歯科治療を開始する前に必ずその旨を歯科医師にお伝えください。骨粗しょう症の治療薬が、ごく稀に歯科治療に影響を及ぼす副作用を引き起こす可能性があるためです。
骨粗しょう症の治療薬(ビスフォスフォネート製剤・デノスマブなど)
骨粗しょう症の治療では「ビスフォスフォネート製剤(BP製剤)」が広く使用されています。骨の吸収を抑えて骨密度を高める優れた効果がある一方、近年は注射薬の「デノスマブ(プラリア®)」も使用が増えています。
副作用のリスク:「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」
これらの薬を使用中の方が抜歯などの外科処置を受けると、ごく稀に処置した部位の骨が正常に再生・治癒せず、骨が壊死してしまう「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」という状態が報告されています。発症頻度は低いものの、一度発症すると治療が長期化することがあります。
⚠️ BP製剤には飲み薬と注射薬があります
注射薬(ゾレドロン酸など)は飲み薬に比べてMRONJのリスクが高いとされています。飲み薬か注射薬かを含め、薬剤名・服用期間を正確にお伝えいただくことが重要です。
だからこそ、歯科医師への申告が不可欠
まず大前提として、「お薬を飲んでいるから歯科治療が受けられない」ということは決してありませんので、ご安心ください。
服用中のお薬の種類・期間・用法(飲み薬か注射薬か)を正確にお伝えいただくことで、私たちは…
- 抜歯などの外科処置を、可能な限り安全に行うための計画を立てる
- 必要に応じて主治医と連携し、休薬の可否や治療タイミングを検討する
- 処置前後の感染予防や口腔ケアを強化し、リスクを最小限に抑える
といった万全の対策を講じることができます。患者さんの安全を守るために、正確な情報提供が不可欠です。
歯と骨、両方を守るために私たちができること
骨粗しょう症の予防・改善とお口の健康維持には、共通する大切なポイントがあります。日常生活で意識していただきたい3つのことをご紹介します。
① カルシウムとビタミンDを意識した食生活
骨の主成分であるカルシウム(乳製品・小魚・大豆製品など)と、その吸収を助けるビタミンD(きのこ類・魚類・日光浴など)をバランス良く取り入れることが大切です。また、しっかりよく噛んで食べることが顎の骨に適度な刺激を与え、骨の健康維持にも役立ちます。

② 適度な運動の習慣
ウォーキングなどの荷重運動は、骨に適度な負荷をかけることで骨密度を維持・向上させる効果があります。転倒による骨折予防にもなるため、無理のない範囲で毎日続けることが大切です。
③ 定期的な歯科検診とプロフェッショナルケア
骨粗しょう症で顎の骨がもろくなっている場合、歯周病の進行は通常より早く深刻な結果を招くことがあります。定期的にPMTCなどのプロフェッショナルケアを受け、歯周病の原因となるバイオフィルムを徹底除去してお口を清潔に保つことが、ご自身の歯を守る上で非常に重要です。
🦷 酒井歯科医院からのご提案
骨粗しょう症の方・骨密度が気になる方こそ、3〜4ヶ月に一度の定期検診をおすすめします。歯周病の早期発見・早期対応が、歯を長く守ることにつながります。
お口と全身の健康を守るパートナーとして
お口の健康は、全身の健康と密接につながっています。当院は、お口の中だけを診るのではなく、患者さんの全身の健康まで見据えたパートナーでありたいと考えています。
骨粗しょう症の治療を受けている方、骨密度が気になり始めた方、ご家族が心配な方。どんな些細なことでも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。

よくあるご質問
Q. 骨粗しょう症の薬を飲んでいますが、抜歯はできますか?
A. 服用しているからといって、抜歯が必ずできないわけではありません。ただし、ビスフォスフォネート製剤(BP製剤)やデノスマブを使用中の方は、ごく稀に「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」のリスクがあるため、必ず事前に歯科医師へお申し出ください。薬剤名・服用期間・用法(飲み薬か注射薬か)を正確にお伝えいただくことで、安全な治療計画を立てることができます。必要に応じて主治医と連携しながら対応いたします。
Q. 骨粗しょう症があると、インプラントはできないのですか?
A. 骨粗しょう症があるからといって、インプラント治療が一律にできないわけではありません。ただし、インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込む治療のため、骨密度の低下は治療の成否に影響する場合があります。また、BP製剤やデノスマブを使用中の方はMRONJのリスクがあるため、慎重な判断が必要です。まずは歯科医師にご相談いただき、骨の状態や服用薬を総合的に評価した上で適応を判断いたします。
Q. 骨密度が低いと、歯周病になりやすいのですか?
A. 骨密度が低下すると、歯を支える顎の骨(歯槽骨)ももろくなるため、歯周病菌の攻撃に対する抵抗力が弱まります。その結果、歯周病がそれほど進行していない段階でも骨の破壊が通常より早く進みやすくなります。骨粗しょう症の方は特に、定期的な歯科検診と歯周病の早期対応が重要です。
Q. BP製剤を服用中ですが、どの歯科処置が影響を受けますか?
A. 主に抜歯・インプラント・歯周外科手術など、顎の骨を伴う外科的処置がMRONJのリスクと関連するとされています。一方、虫歯の治療・クリーニング・入れ歯の調整などの処置は通常通り受けていただけます。いずれの場合も、服用中のお薬を事前にお伝えいただくことが安全な治療の第一歩です。
Q. 骨粗しょう症の治療をやめれば、歯科治療のリスクはなくなりますか?
A. 自己判断での休薬は大変危険ですので、絶対に行わないでください。BP製剤は骨に長期間蓄積される性質があるため、服用をやめてもすぐにリスクがゼロになるわけではありません。休薬の可否やタイミングについては、内科・整形外科の主治医と歯科医師が連携して判断する必要があります。まずは歯科医師にご相談ください。
酒井歯科医院では、むし歯・歯周病の治療だけでなく、 定期的なプロケアによる予防歯科を診療の中心に位置づけています。 当院が対応している治療の全体像は診療案内ページで、 医院の診療方針や院内環境については酒井歯科医院トップページからご覧いただけます。
執筆・監修歯科医
歯の土台となる
骨の健康も守る!
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会




