最近、インターネットやSNSで「貼るだけで本物の歯が再生するパッチ」という話題が広がっています。韓国の研究チームが開発したというこの新技術は、もし実用化されれば歯科医療が大きく変わるかもしれないと注目されています。

ですが、現役歯科医としての私の感覚では、「近い将来に一般的な治療として使われるか」という点については慎重に見る必要があると感じています。この記事では、この話題を一般の方向けに分かりやすく解説し、最後にいま大切な「予防」について触れたいと思います。
韓国で開発された「歯の再生パッチ」とは?
今回話題になっているのは、歯ぐきに貼ることで歯の組織を再生させる可能性がある“生体活性パッチ”です。パッチには細胞を活性化する物質が含まれており、虫歯などで失われた象牙質(歯の内部の組織)を修復することが期待されています。

もしこの技術が確立すれば、初期むし歯であれば削らずに歯の組織を回復させることが可能になるかもしれません。削る量を減らすという意味でも、非常に夢のある研究です。
「歯が丸ごと生えてくる」とはまだ言えません
ここが非常に重要なポイントです。現段階で示されているのは、あくまで「歯の一部の組織(象牙質)の再生」であり、抜けた歯が丸ごと自然に生え変わるといったレベルではありません。
ニュース報道では「入れ歯の時代が終わる」といった表現も見られますが、科学的にはそこまでの実証はまだないのが現実です。期待が先走っている部分もあるため冷静に受け止める必要があります。
実用化までにはまだ時間がかかる見込みです
現在の研究は動物実験などの前臨床段階であり、これから人への臨床試験を行い安全性と効果を十分に確認していく必要があります。
再生医療に近い技術であるため承認プロセスも厳しく、一般の歯科医院で「今日から使える」という段階に到達するのは簡単ではありません。正直な話、私が現役のうちに保険診療として普及する可能性はほぼないと考えています。技術自体は夢がありますが、患者さんが気軽に受けられるようになるまでには長い時間がかかるでしょう。

夢のある技術だからこそ正しく理解したい
この研究は、虫歯を削らずに治すという理想に近づく素晴らしい成果です。ただし現状では次の点を理解していただくことが大切だと思います。
つまり、現時点では万能の治療法ではないということです。
どんな未来が来ても、いちばん強いのは「予防」
最先端の研究を見ると、つい「そのうち歯も再生できるから大丈夫」と思いたくなるかもしれません。残念ながら診療の現場にいる立場から断言できるのはどんな治療よりも自分の歯に勝るものはないということです。
歯を失ってから治療法を探すより、そもそも失わないようにする方が圧倒的に簡単で、経済的で、快適です。定期検診、クリーニング(PMTC)、歯周病管理、フッ素活用、正しいブラッシング、早期治療・・・こうした予防こそが、いま最も確実で効果の高い方法です。
まとめ:未来に期待しつつ、今日できることを大切に
韓国の「歯の再生パッチ」は大変興味深い研究であり、歯科医療の未来を明るくする可能性があります。ですが、抜けた歯が自然に再生する段階にはまだ達しておらず、一般治療として普及するには相当なる時間がかかります。

いま私たちが大切にすべきなのは、未来の技術に頼ることではなく今日の予防で自分の歯を守ることです。どんな技術が登場しても、自分の歯を残していくことが一番の近道であることに変わりはありません。
執筆・監修歯科医
自分の歯を守るための
歯科医療にこだわる
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会






