はじめに:なぜ「年齢」という漢字に「歯」が入っているのか
歯科医師として長く臨床に携わっていると、時に、歯科学の奥深さに改めて気づかされることがあります。
この年齢になり、私がようやくその本当の意味を噛み締められるようになった言葉。それは、私たちの「年齢」を意味する「齢」という漢字です。なぜ、この文字の中に「歯」という一字が含まれているのでしょうか。
それは、古来より、歯の状態がその人の健康と人生の質そのものを象徴してきたからに他なりません。
そして、現代。
私は、この「歯」と「健康」の関係が、私たちが歯科医師になった頃とはまた少し違う様相を呈してきたと感じています。その最大の原因は、言うまでもなくスマートフォンやパソコンの出現です。


原因不明の不調…その犯人はあなたの「姿勢」かもしれない
「特に硬いものを噛んだわけでもないのに顎が痛む…」
「マッサージに行ってもすぐに元に戻ってしまう慢性的な頭痛や肩こり…」
「夜中の歯ぎしりを家族に指摘された…」
こうした、原因がはっきりしない不調を訴える患者さんが、ここ10数年で明らかに増えています。そして、その多くに共通しているのが長時間、同じ姿勢でデジタル機器を操作する・・・という現代的なライフスタイルです。

あなたが何気なくスマートフォンを見ている時、その頭が、どれほどの重さで首や肩にのしかかっているかをご存じでしょうか。
「スマホ首」がお口の崩壊を招くドミノ倒し【エビデンス】
私たちの頭部の重さは約5〜6kg。ボーリングの球とほぼ同じ重さです。この重い頭を私たちは非常に繊細な首の骨とその周りの筋肉で支えています。
①「スマホ首」が首と肩にかける驚くべき負荷
まっすぐ前を向いている時、首にかかる負荷は頭の重さと同じ約5〜6kgです。ですが、スマートフォンを見るために首の角度が15度傾くだけで負荷は12kgに。30度で18kg。そして、60度まで傾くと実に27kgもの負荷が常に首にかかり続けることになります。

この状態が、いわゆる「スマホ首(ストレートネック)」です。首や肩の筋肉は、この異常な負荷に耐えるために常にガチガチに緊張し血行不良に陥り慢性的なこりや痛みを引き起こします。

② 緊張の連鎖:首から顎の筋肉へ
そして、問題はそこで終わりません。首や肩の筋肉の過緊張は、そのすぐ隣にあるお口周りの「咀嚼筋(噛むための筋肉)」へと確実に連鎖していきます。

③ 全ての歪みは「歯」に集まる
首や肩、そして顎の筋肉が常に緊張している状態。それは、無意識のうちに上下の歯を“そっと”接触させ続ける「TCH(歯列接触癖)」や睡眠中に強い力で歯を食いしばる「歯ぎしり」の最大の引き金となります。
この、持続的な「接触」や「食いしばり」の力が、歯をすり減らし歯にヒビを入れ顎関節症を引き起こし、そして、原因不明の歯の痛みを生み出す全ての不調の最終的な出口になっているのです。
だから、私たちの「診断」も進化しなければならない
かつての歯科治療は、虫歯になった「歯」一本だけを見て、そこを「削って詰める」ということが中心でした。しかし、もはやその考え方だけでは現代人の健康を守ることはできません。
私たちは、あなたの歯を診せていただく際に、その背景にあるあなたの「生活」そのものを見ています。


- どんなお仕事をされていますか?
- スマートフォンは一日にどのくらい見ますか?
- 睡眠はしっかりとれていますか?
従来の歯科知識だけでなく、姿勢・筋肉・生活習慣といった様々な分野の知識を取り入れ、あなたを総合的にサポートしていく・・・それこそが、現代の「かかりつけ歯科医」に求められる新しい役割なのです。
もし、あなたが、原因不明の不調に悩んでいるなら・・・その答えは、意外にもあなたのお口の中と日々の生活習慣の中にあるのかもしれません。

余談ですが、私はこのHPを自作している関係上、間違いなくノートPCのヘビーユーザーですが、姿勢をなるべく保つ為にノートPCは上のイラストの右側のようなスタンドに乗せて使用しております。(汗)
執筆・監修歯科医
歯だけを診る時代は
もう、終わりました
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会