はじめに:「歯槽膿漏」は「歯周病」の昔の呼び名?
「歯槽膿漏(しそうのうろう)」と「歯周病(ししゅうびょう)」。どちらも歯ぐきに関する病気としてよく耳にする言葉です。 患者さんからもよく 「歯槽膿漏と歯周病ってどう違うんですか?」とご質問をいただきます。
結論から申し上げますと、これらは別の病気ではありません。 現在「歯周病」と呼ばれている病気の症状が進行した状態を昔は「歯槽膿漏」と呼んでいたのです。
この記事では、呼び名の違いだけでなく、その背景にある「病気の本当の怖さ」や「予防の重要性」を歯科医師の視点で分かりやすく解説します。

「歯槽膿漏」とは?― 漢字が示す、恐ろしい症状
昔ながらの呼び方である「歯槽膿漏」という言葉は、漢字を分解すると次のようになります。
- 歯槽(しそう):歯を支えているあごの骨
- 膿(のう):細菌と白血球の死骸のかたまり
- 漏(ろう):漏れ出すこと
つまり「歯槽膿漏」とは、「歯を支える骨から膿が漏れ出す状態」を意味する非常に直接的な表現です。
この言葉が使われていた時代は、歯ぐきから膿が出て、歯がグラグラになり、最終的には自然に抜け落ちてしまう・・・そんな重度の歯周病(末期症状)を示すものでした。
「歯周病」とは?― 現代のより広い病名
一方、「歯周病」はより広い範囲をカバーする現代の正式な病名です。 「歯周」とは、歯の周りの組織(歯ぐき=歯肉、歯槽骨など)を指します。
歯周病は、いきなり歯槽膿漏のような末期になるわけではなく、初期から静かに進行していくのが特徴です。
初期段階:「歯肉炎(しにくえん)」
- 歯周病菌が歯ぐきに感染し始めた状態
- 歯ぐきが赤く腫れ、歯磨きで血が出ることも
- ほとんど痛みがないため、気づかれにくい
👉 この段階であれば、丁寧な歯磨きと歯科医院でのクリーニングで健康な状態に戻すことが可能です。
進行段階:「歯周炎(ししゅうえん)」
- 炎症が歯ぐきから骨(歯槽骨)に広がった状態
- 歯ぐきが下がり、歯と歯ぐきの間(歯周ポケット)が深くなる
- 昔「歯槽膿漏」と呼ばれていたのはこの状態
👉 一度溶けてしまった歯槽骨は、基本的には自然には元に戻りません。
呼び方の違いと、本当に怖いポイント
呼び名の関係を整理すると、以下のようになります。
- 歯周病:歯肉炎+歯周炎を含む全体の病名
- 歯槽膿漏:重度の歯周炎(歯周病が進行した症状)の古い呼び名
👉 例えるなら、「風邪」という病気(歯周病)の中に、「高熱」や「ひどい咳」といった症状(歯槽膿漏)がある・・・そんな関係です。
そして本当に恐ろしいのは、痛みがないまま静かに進行していくこと。
「痛くないから大丈夫」と放っておくと知らぬ間に歯を支える骨が破壊されていくのです。

歯周病は「予防」できる病気です
歯周病は進行すると治療が難しくなりますが、原因は明確です。 主な原因は歯垢(プラーク)であり、正しいケアで予防できます。
昔は「年だから仕方ない」と思われていた病気も、今では
- 定期的なプロケア
- 効果的なセルフケア用品
- 早期発見・早期治療
でコントロールできる時代になりました。
まとめ:早めのチェックが歯を守ります
症状が出る前、つまり「歯肉炎」の段階で発見・対応できれば、歯を失うリスクを大きく減らすことができます。
痛みがなくても定期検診でご自身のお口の状態を知ることが何より大切です。
当院では、歯周病の検査・治療・予防をトータルでサポートしています。 「これって歯槽膿漏かな?」と少しでも気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。
執筆・監修歯科医
その「?」を
「安心」に変えるお手伝い
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会