はじめに:「磨いている」と「磨けている」の大きな違い
「毎日、食後にちゃんと歯磨きをしています」
定期検診で、多くの患者さんがそうおっしゃいます。ですが、私たちが専門家の目でチェックすると、残念ながらほとんどの方に「磨き残し」が見つかります。
実は、歯ブラシだけで完璧に磨いたつもりでも「歯全体の汚れの約60%しか落とせていない」という衝撃的なデータがあります。残りの40%の汚れは、歯ブラシが物理的に届かない「歯と歯の間」に、毎日、着実に蓄積されているのです。
そして、大人の虫歯や歯周病のほとんどは、この「歯と歯の間」から始まります。この記事では、あなたの歯磨きの質を100%に近づけるための最強のパートナー「デンタルフロス」と「歯間ブラシ」の重要性について徹底的に解説します。
なぜ、歯ブラシだけではダメなのか?
歯ブラシの毛先は、歯の表面(噛む面、表側、裏側)の汚れを落とすのは得意ですが、歯と歯が接している非常に狭い「隣接面(りんせつめん)」には、どうしても思うように入り込むことができません。
例えるなら・・・部屋の掃除で、掃除機はかけるけれど家具と家具の隙間のホコリは全く掃除していないのと同じ状態です。その「磨き残しの聖域」で細菌が繁殖し、歯を溶かし歯ぐきに炎症を起こすのです。
「60点」で満足しますか? それとも「95点」を目指しますか?
歯ブラシだけのケアが「60点」だとすれば、フロスや歯間ブラシを併用することで、その点数を「90点」・「95点」へと飛躍的に高めることができます。この毎日の「プラス35点」の積み重ねが、10年後・20年後のあなたの歯の寿命を大きく左右するのです。
その「60点」を完璧に。正しい歯ブラシの基本
歯と歯の間のケアに進む前に、まずは、基本である「歯ブラシ」の使い方をもう一度おさらいしてみましょう。多くの方が良かれと思って続けている習慣が、実は非効率な「NG歯磨き」になっているかもしれません。
① 持ち方:「グー」ではなく「鉛筆持ち」で
歯ブラシを、グーで力強く握りしめていませんか? その持ち方では、力が入りすぎてしまい歯や歯ぐきを傷つける原因になります。鉛筆を持つ(ペングリップ)ように、軽く優しく握るのが正しい持ち方です。
② 力加減:毛先が軽くしなる程度
歯に当てる力は、歯ブラシの毛先が軽くしなるか、しならないか・・・という程度の、非常に優しい力(150g〜200g程度)で十分です。力を入れてゴシゴシ磨いても汚れは効率的に落ちません。
③ 動かし方:「小刻みな振動」で、1〜2本ずつ
歯ブラシを5mm〜10mm程度の幅で小刻みに優しく振動させるように動かします。そして、一箇所を20回程度磨いたら隣の歯へ移動する。この地道な作業を、全ての歯の「表側」・「裏側」・「噛む面」で繰り返します。
④ あなただけの「磨き方指導」
もちろん、これらはあくまで基本です。あなたのお口の形や歯並びに合わせて、どこに汚れが残りやすいのか、どこに歯ブラシが当たりにくいのか。当院では、専門家である歯科衛生士が、あなただけの「弱点」を的確にお伝えし、そこを攻略するためのオーダーメイドの磨き方を丁寧に指導させていただきます。

あなたはどっち派?「フロス」と「歯間ブラシ」の正しい選び方
フロスと歯間ブラシは、どちらも歯と歯の間を清掃する道具ですがそれぞれに得意な場所があります。ご自身の歯の状態に合わせて最適なものを選びましょう。
①「デンタルフロス」が向いている方
歯と歯の隙間が狭い方、歯並びが重なっていたりする方にお勧めです。糸状のためどんなに狭い隙間にも入り込んで歯の側面に付着したネバネバの歯垢(プラーク)を絡め取ることができます。
②「歯間ブラシ」が向いている方
歯と歯の隙間が比較的広い方、歯ぐきが下がってきた方、ブリッジやインプラントが入っている方にお勧めです。小さなブラシが、広い隙間や歯の根元の凹凸にフィットし効率的に汚れを掻き出します。
【最重要】歯間ブラシで最も大切なのは、ご自身の歯の隙間に合った「サイズ」を選ぶことです。細すぎると汚れが取れず、太すぎると歯ぐきを傷つけてしまいます。初めて使う際は、必ず歯科医院で歯科衛生士に適切なサイズを選んでもらうようにしましょう。
【動画で学ぶ】正しい使い方
せっかく良い道具を手に入れても、使い方が間違っていては効果が半減してしまいます。SUNSTARさんが公開されている非常に分かりやすい動画を参考にプロのポイントをしっかり押さえましょう。
デンタルフロスの使い方
歯間ブラシの使い方
もちろん、動画だけでは分からない、あなたのお口に合わせたより細かい使い方のコツは当院の歯科衛生士がマンツーマンで丁寧に指導させていただきます。
「面倒くさい」が「やらないと気持ち悪い」に変わるまで
「歯ブラシに加えて、フロスや歯間ブラシまで・・・面倒だなぁ」
最初はそう感じるかもしれません。ですが、騙されたと思って、まずは一週間だけでも続けてみてください。
歯と歯の間から驚くほど汚れが取れること。そして、これまで体験したことのないようなお口全体の本当の爽快感を知ってしまえば、もう「やらないとナンだか気持ちが悪い」と感じるようになるはずです。
毎日の歯磨きにたった1〜2分のプラスアルファ。その小さな習慣が、あなたの歯の寿命を確実に延ばしてくれます。何を選びどう使えば良いか・・・迷ったらいつでも私たちプロにご相談ください。
執筆・監修歯科医
予防の差は
「歯と歯の間」に出る
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会