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院長メッセージ

私たちが「歯周内科治療」を導入し、そして、やめた理由

    はじめに:ある画期的な治療法との出会い

    数年前、私たち酒井歯科医院は、ある画期的な歯周病治療法に大きな可能性を感じ、医院全体でその導入に踏み切った時期がありました。それが「歯周内科治療」です。

    従来の歯周病治療が、歯石除去などの「外科的」なアプローチが中心だったのに対し、歯周内科は、お薬(内服薬)の力で歯周病の根本原因である細菌そのものを除菌する・・・という内科的なアプローチを主軸とします。

    「歯を削ったり歯ぐきを切ったりする前に、まずはお薬で原因菌を叩く」― この考え方に、私たちは大きな魅力を感じました。当時、熱意ある歯科衛生士たち数名と共に、何度かいわき市から東京の講習会まで足を運び、専門的な知識と技術を学びました。

    国際歯周内科学研究会会員証

    ですが、様々な理由から、現在、当院ではこの歯周内科治療を医院の正式な治療メニューとしてはご提供しておりません。この記事では、私たちがこの治療法から何を学び、それが現在の診療にどう活かされているのか、そして、歯周病治療の未来について包み隠さず(!?)お話ししたいと思います。


    「歯周内科治療」とは、どのような治療だったのか?

    歯周内科治療は、主に3つのステップで構成される、非常に画期的なシステムでした。

    ① 位相差顕微鏡による、リアルタイムPCR細菌検査

    まず、患者さんのお口の中から針の先程のほんの少しだけの歯垢(プラーク)を採取し、それを「位相差顕微鏡(いそうさけんびきょう)」で観察します。すると、モニターには、今まさにその患者さんの口腔内で活動している、うごめく歯周病菌やカビ菌(カンジダ菌)の姿がリアルタイムで映し出されます。患者さんご自身の目で、ご自分のお口に潜む“敵”の正体を確認していただく非常にインパクトのある検査です。

    プラークを位相差顕微鏡で見てみると・・・

    口腔内が綺麗な方(当院スタッフ)の位相差顕微鏡像

    歯周病が重度な方のプラークの位相差顕微鏡像

    ② お薬(内服薬・歯磨き剤)による除菌

    顕微鏡検査で特定された細菌の種類に応じて、最適な内服薬(抗生物質)を数日間服用していただきます。同時に、カビ菌に効果のある専用の歯磨き剤も併用し、お口の中全体の細菌叢を徹底的にクリーンな状態へと変化させていきます。

    歯周内科治療の投薬のイメージ
    お薬の服用

    ③ プロフェッショナルケアによる、歯石の除去

    内服薬によって、歯周病菌の活動が弱まった最高のタイミングで、従来通り、歯科衛生士による専門的な歯石除去(スケーリング)を行います。これにより、細菌の“棲み家”である歯石を取り除き、再感染しにくい環境を整えます。


    なぜ、私たちはこの治療を「やめた」のか

    素晴らしい理論と、実際に症状が劇的に改善する患者さんもいらっしゃったこの治療法を、なぜ当院はメインの治療法としなかったのか。それには、いくつかの現実的な壁がありました。

    ① 自費診療という、費用の壁

    歯周内科治療は、残念ながら健康保険が適用されない「自費診療」です。素晴らしい治療法であっても、全ての患者さんにご提案できるわけではない、というジレンマがありました。

    ② スタッフの退職・休職と、技術の属人化

    この治療法を推進してくれていた、志の高い歯科衛生士たちが、結婚や出産といったライフステージの変化で退職・休職してしまったことも大きな理由の一つです。高度な専門知識を要する治療は、医院全体でそのレベルを維持し続けるのが非常に難しいという現実に直面しました。

    ③ 保険診療の枠組みの中でも、質の高い治療は可能であるという確信

    そして何より、歯周病治療の原点は、やはり日々の丁寧なブラッシングと歯科衛生士による継続的なプロフェッショナルケア(歯石除去やPMTC)にあります。私たちは、保険診療という、誰もがアクセスしやすい枠組みの中でも、この基本を徹底することで、多くの患者さんの歯周病を改善しコントロールできる、という強い確信を、改めて得ることができました。
    厚労省が推進する保険制度が、2018年頃から従来とは異なって「歯周病予防」に手厚く変わって来てくれたことも相俟って、本来の基本をベースに診療体系を組んで行くことが可能にもなったのも大きな理由のひとつです。


    歯周内科治療の経験が、私たちに残してくれた「財産」

    歯周内科治療を正式なメニューから外したからといって、私たちの経験と学びが無駄になったわけでは決してありません。むしろ、それは医院の大きな「財産」として現在の診療に深く根付いています。

    お薬の服用

    ① 位相差顕微鏡は、今も現役で活躍しています

    当院では今でも、ご希望の患者さんには、サービスの一環として位相差顕微鏡をお見せすることが可能です。ご自身のお口の中の細菌を目の当たりにすることは、正直申しますと動画を見て気持ちの良いことではないのですが、「歯磨きを頑張ろう!」というモチベーションを劇的に高める最高の教育ツールにはなりえます。当院では現在、治療としてではなく患者さんの“気づき”のために、この機器を活用しています。

    ② 「原因」を追求する姿勢

    歯周内科治療の根幹にある「まず敵を知り、その原因を叩く」という考え方は、私たちの現在の全ての歯周病治療に活かされています。なぜ、あなたの歯周病は悪化したのか。「生活習慣は?」・「噛み合わせは?」・「全身疾患は?」・・・私たちは、常にその「根本原因」を患者さんと一緒に考えることを何よりも大切にしています。


    正直な情報提供こそ、私たちの責任

    歯科医療は日進月歩・・・常に進歩し変化していきます。昨日まで最善とされていた治療法が明日には変わるかもしれません。大切なのは、その時々で一つの治療法に固執するのではなく、科学的根拠に基づき、そして何より、目の前の患者さん一人ひとりにとって本当に最善の選択肢は何かを、誠実に考え続けることだと私たちは考えています。

    朝日サリーさんの「健康MEMO」への寄稿

    この記事や上の朝日サリーさんの寄稿文(健康MEMO)が、歯周病に悩むあなたの一つの「知る」きっかけになれば幸いです。

    執筆・監修歯科医

    変わる治療法と
    変わらない真摯さ

    酒井直樹

    医療法人SDC 酒井歯科医院 理事長 / 院長

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    酒井歯科医院

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