はじめに:「口腔がん」は、決して他人事ではありません
「お口の中に、がんができる」
そう聞くと、あまり馴染みがなく自分には関係ないと感じる方が多いかもしれません。しかし、口腔がん(こうくうがん)は誰にでも起こりうる病気であり、日本では年間約8000人の方が新たに診断され、その数は増加傾向にあります。

しかし、必要以上に怖がることはありません。なぜなら、口腔がんは、早期に発見すれば比較的簡単な治療で治癒する可能性が非常に高いがんであり、そして、その早期発見の最前線にいるのが、私たち、かかりつけ歯科医だからです。
この記事では、ご自身の、そして大切なご家族の命を守るために、口腔がんに関する正しい知識と見過ごしてはならない初期症状のサインについて詳しく解説していきます。
口腔がんとは?― お口の中にできる、すべてのがんの総称
口腔がんとは、その名の通り、お口の中に発生するがんの総称です。発生する場所によって、主に以下のように分類されます。

① 舌がん(ぜつがん)
口腔がんの中で最も発生頻度が高いがんです。舌の側面や裏側にできることが多く、初期は口内炎と間違えやすいのが特徴です。
② 歯肉がん(しにくがん)
歯ぐきに発生するがんです。入れ歯の不適合による傷や、歯周病と症状が似ているため発見が遅れることがあります。
③ 口腔底がん(こうくうていがん)
下の前歯の内側、舌の下の柔らかい部分に発生するがんです。
④ 頬粘膜がん(きょうねんまくがん)
頬の内側の粘膜に発生するがんです。白い膜のような見た目になることがあります。
⑤ 口唇がん(こうしんがん)
初期症状は、唇にしこりが生じ潰瘍ができる可能性が高まります。
⑥ 上顎洞がん(じょうがくどうがん)
歯科で上顎洞と呼ばれるのは耳鼻科領域でいうところの副鼻腔のことです。このがんの初期症状は、上顎の歯のつけ根の粘膜や頬が腫脹したり、長期に渡る鼻詰まりや鼻水・歯痛・頭痛・開口障害・眼球突出・複視(物が二重に見える)など多岐にわたります。
2023年でしたか、私の知人もこれで命を落としています。
これだけは知ってほしい。口腔がんの危険因子(リスクファクター)
口腔がんの発生には、いくつかの危険因子が関わっていることが分かっています。

① 喫煙と過度な飲酒
これらは、口腔がんにおける最大のリスク因子です。タバコの煙に含まれる発がん性物質やアルコールが、お口の粘膜を慢性的に刺激し、がん細胞の発生を促します。特に、喫煙と飲酒の両方の習慣がある方は、リスクが相乗効果で飛躍的に高まることが知られています。

② 合わない入れ歯や、尖った歯による「慢性的な刺激」
サイズが合っていない入れ歯の縁が常に歯ぐきや舌の同じ場所に当たっていたり、治療せずに放置した縁が尖った虫歯が粘膜を傷つけ続けたり・・・このような「慢性的な物理的刺激」も がんの引き金になることがあります。
③ 不衛生なお口の環境
歯磨きを怠るなど、お口の中が不衛生な状態が続くと、細菌が増殖し慢性的な炎症が起こります。この炎症が、がんの発生を助長する可能性も指摘されています。
見過ごさないで!自分でできる、お口のセルフチェック
月に一度でも構いません。鏡を持ってお口の中を隅々までチェックする習慣をつけましょう。以下のような症状が2週間以上続く場合は、自己判断せず必ず専門家である私たちにご相談ください。

- なかなか治らない口内炎
- お口の粘膜の色の変化(白くなっている、赤くなっている)
- 粘膜の表面のざらつき、しこりや、盛り上がり
- 原因不明の出血や、痛み、しびれ
セルフチェックは、あくまで早期発見の「きっかけ」です。少しでも「あれ?」と思うことがあればためらわずに受診してください。
歯科医院が「がん検診」の場になる理由
なぜ、歯科医院での定期検診が、口腔がんの早期発見にこれほど重要なのでしょうか。
それは、私たち歯科医師や歯科衛生士が、毎日の診療で専用のライトで照らしながら、皆様のお口の粘膜を文字通りミリ単位で観察しているからです。それは、皆様がご自身で鏡で見るよりも遥かに詳しく、そして専門的な視点です。

特に、舌の裏側や喉に近い奥の方など、ご自身では見つけにくい場所にできた初期のがんを発見できるのも、私たちプロフェッショナルならではの役割です。
歯科の定期検診は、虫歯や歯周病のチェックだけでなく命を守るための「口腔がん検診」でもあるのです。
口腔がん早期発見の為に
私が所属する日本歯科医師会で非常にわかりやすい動画(日歯8020TV)を紹介しています。ご覧になってみてください。
大切なご自身の、そしてご家族の命を守るために
口腔がんは、早期に発見し治療を開始すれば、決して怖い病気ではありません。しかし、発見が遅れると、食事や会話といった生きる上での根源的な機能に大きな影響を及ぼす可能性があります。
半年に一度の定期検診。それが、あなたと、あなたの大切な家族の未来を守るための、最も簡単で最も確実な方法です。ぜひ、その習慣を今日から始めてみませんか。
執筆・監修歯科医
見過ごさない
小さな変化が命を守る
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会