テレビを見ている時、お口が「ポカン」と開いていませんか?
リラックスしている時や、何かに集中している時、無意識のうちにお口がポカンと開いてしまう・・・もし、あなたやお子さんにそんな癖があるなら、それは「口呼吸」のサインかもしれません。

「息ができれば、口でも鼻でも同じでしょう?」
そう思われるかもしれませんが、実はこの2つの呼吸法には、健康に与える影響において天と地ほどの差があるのです。
この記事では、私たち歯科医師の視点から、なぜ口呼吸が「百害あって一利なし」と言われるのか、その驚くべきデメリットと、逆に「鼻呼吸」がもたらす素晴らしい健康効果について、詳しく解説していきます。
なぜ「口呼吸」は、そんなに体に悪いのか?
口は、本来「食べる」・「話す」ための器官であり、「呼吸」するためのメインの器官ではありません。無理に口で呼吸を続けると、体に様々な不都合が生じます。
① 虫歯や歯周病、口臭のリスクが激増する
口呼吸の最大のデメリットは、お口の中が常に乾燥してしまうことです。
お口の健康を守る最強のパートナーである「唾液」は、細菌の増殖を抑え、歯の汚れを洗い流し、酸性に傾いたお口の中を中和してくれる天然のリンス剤です。口呼吸によって唾液が乾いてしまうと、この防御システムが機能しなくなり、虫歯菌や歯周病菌がやりたい放題に増殖。虫歯や歯周病、そして強い口臭の直接的な原因となります。
② 風邪やアレルギーになりやすくなる
私たちの「鼻」はただの空気の通り道ではありません。吸い込んだ空気を温め・加湿し、そして、ホコリや細菌・ウイルスを絡め取る高性能な「空気清浄機」の役割を果たしています。
口呼吸は、この高性能フィルターを一切通さずに、冷たくて汚れた外気を直接喉や肺に送り込んでいるのと同じです。当然、風邪やインフルエンザ・アレルギー性鼻炎などのリスクが高まります。

③ 歯並びや顔つきまで変えてしまう
特に、成長期のお子さんの口呼吸は深刻です。本来、口を閉じている時に舌は上顎にピタッとついており、その力が顎の骨の成長を内側から促します。
ですが、、口呼吸で舌の位置が下がる(低位舌)と、その力が加わらないので上顎が十分に発達しません。その結果、歯が並ぶスペースが不足しガタガタの歯並び(叢生)になったり、いつも口がポカンと開いた締まりのない表情(アデノイド様顔貌)になったりする原因となります。


「鼻呼吸」がもたらす驚くべき4つの健康効果
一方、意識して「鼻呼吸」を習慣にすると、私たちの体には素晴らしい変化が訪れます。
① 天然のマスク機能
鼻毛や粘膜が、空気中のホコリやウイルスをブロック。さらに、冷たく乾燥した空気を肺に送る前に最適な温度・湿度に調整してくれます。
② 虫歯・歯周病予防
お口が潤い、唾液が本来の力を発揮。細菌の増殖を抑え、お口のトラブルを未然に防ぎます。
③ 歯並びの改善・顔つきの引き締め
舌が正しい位置に戻ることで顎の健やかな成長を促し、歯並びの悪化を防ぎます。また、お口周りの筋肉(口輪筋)が鍛えられ引き締まった表情に繋がります。
④ 質の高い睡眠・集中力の向上
鼻呼吸は、より深く質の高い呼吸を可能にします。睡眠中のいびきを改善し、脳に十分な酸素を供給することで日中の集中力や学習能力の向上も期待できます。


今日から始める「鼻呼吸」トレーニング
長年の癖を治すのは簡単ではありませんが、意識することで必ず改善できます。
意識して口を閉じる
テレビを見ている時、本を読んでいる時など、何かに気づいたら意識して唇を閉じる習慣をつけましょう。
あいうべ体操
「あー」・「いー」・「うー」・「べー(舌を出す)」とお口を大きく動かす体操は、口輪筋を鍛え、舌を正しい位置に戻すのに非常に効果的です。

歯科医院でのサポート
お子さんの口呼吸がなかなか治らない場合は、歯並びの問題やお口周りの筋肉の未発達が原因かもしれません。当院では、「プレオルソ」などのマウスピース型装置を使ったお口の機能を育てる「小児予防矯正」にも力を入れています。
たかが「呼吸」とあなどってはいけません。正しい呼吸法は、お金をかけずにできる最高の健康法です。もし気になることがあれば、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
執筆・監修歯科医
正しい呼吸が
お口の健康を育む
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会