「奥歯が1本くらい・・・」その油断が全てを崩壊させる始まりです
「奥歯が1本抜けたけれど、痛くないし、見えないから・・・そのままにしている」
残念ながら、このように考えていらっしゃる方は少なくありません。
ですが、ご自身の判断で歯が抜けたままの状態を放置してしまうことは、歯科医師の立場から見ると時限爆弾のスイッチを押してしまったのに等しい非常に危険な行為なのです。

なぜなら、その「たった1本」の欠損が、お口全体のバランスを崩壊させる最初のドミノ倒しの一枚になるからです。この記事では、歯を1本失うとお口の中で一体何が起こるのか、その恐ろしい連鎖反応について詳しく解説します。
歯は「チーム」で働いている精密なユニットです
まず、ご理解いただきたいのは、私たちの歯は一本一本が独立して存在しているわけではない・・・ということです。全ての歯は、隣り合う歯、そして噛み合う相手の歯と互いに支え合い力を分散させ合うことで、一つの完璧な「チーム」として機能しています。その精密なバランスの上に私たちの「噛む」という行為は成り立っているのです。

では、そのチームから一人のメンバーが突然いなくなってしまったら・・・?
歯を1本失うと起こる「咬合崩壊」へのドミノ倒し
歯が1本抜けたままの空間(欠損部)ができると、残された歯たちは、そのバランスを保とうとして、ゆっくりと、それでいて確実に動き始めます。
① 両隣の歯が、空いたスペースに倒れ込んでくる
抜けた歯の両隣の歯は、支えを失い、空いたスペースに向かって徐々に傾いていきます。これにより、もともと綺麗だった歯並びがガタガタになってしまいます。

② 向かい合う歯が、空いたスペースに伸びてくる
噛み合う相手を失った向かい側の歯は、空いたスペースに向かって歯ぐきからニョキニョキと伸びてきてしまいます(挺出)。

③ 噛み合わせ全体のバランスが崩れる
これらの歯の移動が連鎖的に起こることで、お口全体の噛み合わせの平面がまるで地盤沈下のように歪んでしまいます。これにより、顎関節症を引き起こしたり顔の形が歪んでしまったりすることもあります。
④ 汚れが溜まりやすく、虫歯・歯周病のリスクが増大
傾いたり、伸びたりした歯の周りには複雑な隙間ができます。そこは、歯ブラシが届きにくい細菌の温床となり、健康だった周りの歯まで虫歯や歯周病にしてしまうリスクが劇的に高まるのです。
【動画で見る】歯が抜けたまま放置すると…
この、歯が抜けたままの空間に隣の歯や向かいの歯が倒れ込んでくるトラブルに関して、分かりやすい動画にまとめてあります。ぜひご覧ください。
崩壊を食い止める、3つの「柱の再建」方法
我々の上下14本ずつの歯は、言わば家を支える「柱」のようなものです。一本の柱が失われれば、建物全体が歪み、やがては崩壊に至ります。
そうなる前に、失われた柱を再建する「欠損補綴(けっそんほてつ)」という治療が必要になるのです。主な選択肢は以下の3つです。
① 入れ歯(義歯)
取り外し式の、最も一般的な治療法です。
② ブリッジ
両隣の歯を土台にして、橋をかけるように固定式の歯を補う方法です。
③ インプラント
顎の骨に人工の歯根を埋め込み、独立した歯を再建する方法です。
どの治療法が最適かは、患者さんのお口の状態やご希望によって異なります。それぞれのメリット・デメリットについては下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
大切なのは、「たかが一本」と放置せず、お口全体の崩壊が始まる前に、できるだけ早く失われた柱を再建する一歩を踏み出すことです。手遅れになる前に、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

執筆・監修歯科医
一本の歯から
お口全体を守る
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会