「銀歯にしますか? 白い歯にしますか?」そう聞かれる理由
最近、歯科医院で詰め物や被せ物の治療をする際に、「保険でも白い歯が選べますよ」と勧められた経験はありませんか?
かつて、保険診療の奥歯といえば「銀歯」が常識でした。しかし今、日本の歯科医療は大きな転換期を迎えています。
その背景にあるのが、実は、長年保険診療を支えてきた「金銀パラジウム合金(通称:金パラ)」という金属の、異常な価格高騰です。

この記事では、なぜ銀歯が「高級品」になってしまったのか、そして、それに代わる新しい「白い歯」の選択肢について、歯科医療の裏側も交えながら分かりやすく解説していきます。
銀歯が「高級品」に?― 金パラ価格の異常な高騰
保険診療で使われる、いわゆる「銀歯」は、金・銀・パラジウム・銅などを含む「金銀パラジウム合金」という金属でできています。
この中で、主成分であるパラジウムは、自動車の排気ガスを浄化する触媒など工業製品に不可欠な希少金属(レアメタル)です。近年の世界情勢の不安定化や工業需要の増大により、このパラジウムの価格がかつてでは考えられないレベルまで高騰し続けているのです。
時期 | 1gあたりの公定価格(目安) |
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約10年前(2014年頃) | 約 2,000 円 |
約 4年前(2020年頃) | 約 6,000 円 |
現在(2024年) | 10,000 円以上 |
(出典:各種歯科専門ニュースサイトの公表データを基に作成)
この結果、保険診療が決めた安い公定価格では、銀歯を作れば作るほど歯科医院や歯科技工所が赤字になるという異常事態が発生するようになりました。
国の大きな方針転換 ―「脱メタル」とCAD/CAM技術の推進
このままでは、保険診療での安定した材料供給が危うくなる・・・そうした事態を受け、厚生労働省は金属に代わる新しい材料を保険診療で積極的に活用する・・・という大きな方針転換に踏み切りました。その主役となったのが「CAD/CAM(キャドキャム)技術」です。

CAD/CAM冠(白い被せ物)の保険適用が次々と拡大
CAD/CAMとは、お口の中を3Dカメラでスキャンし、そのデータを元にコンピューターが被せ物を設計(CAD)、そしてロボット(ミリングマシン)がセラミックとプラスチックを混ぜ合わせた材料のブロックを自動で削り出す(CAM)技術です。
2024年時点では、残念ながら、直接口腔内をスキャンできるのは保険制度上、小臼歯の詰め物にしか認められておりません。ご了解下さい。
当院では、国の動きに先駆け、平成25年(2013年)からいち早くこの「CEREC(セレック)」システムを導入し、デジタル歯科治療に取り組んできました。


当初、このCAD/CAM冠が保険で認められていたのは小臼歯(前から4番目、5番目の歯)だけでした。しかし、金パラの高騰を受け、国は立て続けに保険適用範囲を拡大。令和7年(2025年)現在では、条件付きではあるものの、親知らず以外のほぼ全ての歯に、この白いCAD/CAM冠が保険で適用できる時代になったのです。また、金パラの代用金属として、欠損歯数が多い方向けにチタンを使った「チタン冠」も保険導入されました。


「白い歯」が保険で選べる時代の患者さんのメリット
この「脱メタル」の流れは、国や歯科医院の都合だけでなく、患者さんにとっても多くの素晴らしいメリットをもたらします。
① 審美性の向上
やはり一番のメリットは、お口を開けた時に銀歯が目立たないということです。保険診療でも、自然で美しい見た目を手に入れられるようになりました。


② 金属アレルギーの心配がない
銀歯が原因で金属アレルギーを発症してしまう方は少なくありません。金属を一切使わないCAD/CAM冠は、身体にも非常に優しい材料と言えます。
③ 精密な仕上がりで虫歯の再発リスクを低減
コンピューター制御で作製されるCAD/CAM冠は、従来の方法よりも歯との適合が非常に精密です。歯と被せ物の間に隙間ができにくいため、そこから虫歯菌が侵入する「二次カリエス(虫歯の再発)」のリスクを低減できます。
まとめ:新しい「保険の常識」を知り、最適な選択を
「保険の歯=銀歯」という常識は、もはや過去のものとなりつつあります。もちろん、症例によっては金属の方が適している場合もありますが、多くのケースで、保険診療でも、審美的で、身体に優しく、精密な「白い歯」が選べるようになったのです。

当院では、患者さん一人ひとりのお口の状態とご希望に合わせて、銀歯・チタン冠、そしてCAD/CAM冠など全ての選択肢のメリット・デメリットを丁寧にご説明いたします。ご自身の歯にどの治療法が最適なのか・・・ぜひご相談ください。
執筆・監修歯科医
より良い治療を
より身近なものへ
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会