はじめに:「見えない部分」まで、正確に診るということ
安全で確実な歯科治療は、全て「正確な診断」から始まります。
従来のレントゲンが建物を正面から撮っただけの「平面的な写真」だとすれば、これからご紹介する「歯科用CT」は、建物の内部構造から柱の位置・配管までを、ミリ単位で把握できる「立体的な設計図」を手に入れるようなものです。

この「三次元」で見えるという圧倒的な情報量が、これまで歯科医師の経験と勘に頼らざるを得なかった多くの治療を劇的に安全で確実なものへと進化させました。
この記事では、当院がなぜ歯科用CTによる精密診断を大切にしているのか、そして、それがあなたの治療をどのように変えるのかについて詳しく解説していきます。
歯科用CTと、医科用CT・レントゲンとの違い
「CT」と聞くと、大きな病院にあるトンネルのような装置を想像し被ばく量を心配される方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。当院が導入している「歯科用CT」は、医科のCTとは全く異なる歯科治療に特化した非常に身体に優しい設計になっています。
① 圧倒的に少ない被ばく量
歯科用CTの被ばく量は、医科用CTの1/8〜1/50程度と非常に低く抑えられています。撮影時間もわずか10秒程度で、座ったまま、あるいは立ったままで撮影が完了します。

② 歯と顎の領域に特化した、高解像度
撮影範囲をお口周りに限定しているため、医科用CTよりも遥かに解像度が高く、歯の根の微細な形状や顎の骨の密度などをより鮮明に映し出すことができます。
③ レントゲンでは決して見えない「奥行き」が見える
従来のレントゲンでは重なって見えなかった骨の厚みや、神経・血管の位置関係を、あらゆる角度からスライス画像として正確に確認することができます。この「奥行き」の情報こそが安全な外科処置の鍵となります。
歯科用CTが、特に威力を発揮する治療
① インプラント治療
インプラント治療の成否は、術前の「埋入計画」で9割が決まると言っても過言ではありません。そして、その計画を立てる上で、歯科用CTは現代の歯科医療においてもはや絶対に不可欠な「羅針盤」です。
【院長コラム】なぜ、インプラント治療にCTは「絶対不可欠」なのか
当院に歯科用CTを導入する以前、私たちは、インプラント治療の前には必ず近隣の提携病院でCTを撮影していただいていました。患者さんにご足労とご負担をおかけしてでも、それを行うのにはもちろん理由があります。
下の顎の骨は、実は非常に複雑で個人差の大きい形状をしています。特に、舌側の下部が、まるでえぐり取られたように内側に大きく凹んでいる方が驚くほど多くいらっしゃいます。
この断層画像を見なければ、この「内側の凹み」は決して分かりません。どれほど経験を積んだ歯科医師でも、通常のレントゲンだけでこれを見極めることは不可能です。
CTが普及する以前、多くの歯科医師がこの見えない凹みに気づかずに、盲目的にインプラントを埋め込み、骨からインプラント体が突き抜けてしまうといった深刻なトラブルを多発させていた時代がありました。
だからこそ、断言します。良識ある歯科医師であれば、CT撮影を行わずにインプラント治療を行うことは現代では考えられません。安全な手術計画を立てるための絶対不可欠な「羅針盤」・・・それが、歯科用CTなのです。

② 親知らずの抜歯
特に、下顎の骨に埋まっている親知らずの抜歯では、歯の根の先端と神経管との距離や位置関係を三次元的に把握することが安全な抜歯の絶対条件です。CT撮影を行うことで抜歯に伴う神経麻痺などのリスクを最小限に抑えることができます。

③ 歯の根の治療(精密根管治療)
従来のレントゲンでは見えにくかった複雑に枝分かれした根管(歯の根の管)の形態や、根の先にできた膿の袋の正確な大きさ・広がりを立体的に把握できます。これにより治療の成功率を大きく向上させることができます。

④ 歯周病治療
歯周病によって、歯を支える骨が、どの方向に、どれくらい溶けてしまっているのかを三次元的に正確に評価できます。これにより、より確実な治療計画の立案や歯周組織再生療法などの高度な治療の適応判断が可能になります。

⑤ 歯根破折の診断
歯根破折とは歯の根が割れた状態で抜歯の原因の一つです。正確な診断が難しく、根管治療が長びく場合は歯根破折の疑いがあります。CTで撮影すると根の状態がはっきりわかり、歯根破折の診断がより正確にできます。
「念のため」ではなく「より良い治療のため」のCT撮影
当院では、歯科用CTを単に「難しい症例のための特別な検査」とは考えていません。
それは、全ての患者さんに、より安全で、より確実で、そしてより質の高い治療を提供するための現代の歯科医療における「スタンダード」だと考えています。
もちろん、全てのケースでCT撮影が必要なわけではありません。私たちは、患者さん一人ひとりのお口の状態を丁寧に見極めCT撮影が本当に必要だと判断した場合にのみ、その目的とメリットを十分にご説明しご納得いただいた上で撮影を行います。
見えない部分への、徹底したこだわり。それこそが、私たちの医療品質の根幹です。
執筆・監修歯科医
見えない部分まで
決して妥協しない
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会