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はじめに:「たかが歯ぎしり」とあなどってはいけません

「朝起きると、なんだか顎が疲れている・・・」
「家族から、夜中の歯ぎしりを指摘されたことがある・・・」
「虫歯でもないのに、奥歯が痛んだりしみたりすることがある・・・」

こうした症状に、心当たりはありませんか? もしそうなら、あなたは睡眠中にご自身が思っている以上の力で歯をこすり合わせる「歯ぎしり(ブラキシズム)」をしているのかもしれません。

歯ぎしりは、単なる「うるさい癖」ではありません。それは、健康な歯を破壊し、顎関節症や原因不明の頭痛・肩こりまで引き起こす非常に深刻な問題なのです。この記事では、なぜ歯ぎしりが起こるのか、その本当の怖さと、あなたの歯と顎を夜間の破壊活動から守るための最も確実な方法について詳しく解説します。


あなたはどのタイプ? 歯ぎしり(ブラキシズム)の3つの種類

ブラキシズムには、主に3つのタイプがあります。複数のタイプを併発している方も少なくありません。

① グラインディング

一般的に「歯ぎしり」と聞いて多くの方が想像するタイプです。上下の歯を「ギリギリ」と強くこすり合わせます。非常に大きな音が出ることがあり、ご家族に指摘されて初めて気づくケースが多いです。

ギリギリ横に動かす歯ぎしり、グラインディング

② クレンチング

音を立てずに上下の歯を「グッ」と強く食いしばるタイプです。音が出ないため、ご自身でも周りの人にも気づかれにくいのが特徴です。日中、無意識に行っていることもあります。

音を立てずに上下の歯を「グッ」と強く食いしばるクレンチング

③ タッピング

上下の歯を「カチカチ」と小刻みに鳴らすタイプです。比較的まれですが、これも歯や顎に負担をかけます。

上下の歯を「カチカチ」と小刻みに鳴らすタッピング

歯ぎしりが引き起こす、恐ろしい8つの悲劇

睡眠中の歯ぎしりでは、時に体重の2倍以上、50kg〜100kgもの異常な力が歯と顎にかかると言われています。この破壊的な力が、様々なトラブルを引き起こします。

✅ ① 歯がすり減る・欠ける・割れる(咬耗・破折)

最も直接的なダメージです。歯の表面のエナメル質がすり減って内部の象牙質が露出し、知覚過敏の原因になります。さらに力がかかると、歯にヒビが入ったり最悪の場合は歯が真っ二つに割れてしまい抜歯に至ることもあります。

歯ぎしりによる咬合面の過剰なすり減り
歯ぎしりによる歯冠破折

✅ ② 詰め物・被せ物が、頻繁に壊れたり取れたりする

せっかく治療したセラミックなどの被せ物が、欠けたり、割れたり、頻繁に取れてしまったりします。

修復物の脱離原因となる歯ぎしり

✅ ③ 歯周病を、劇的に悪化させる

歯周病は、細菌によって歯を支える骨が溶かされる病気です。例えるなら、家の「土台」が腐り始めている状態です。
そこに、歯ぎしりという毎晩のように家全体を激しく揺さぶる「地震」が加わったらどうなるでしょう? 土台の崩壊は一気に加速してしまいますよね。
歯ぎしりが直接、歯周病を引き起こすわけではありません。しかし、既に歯周病が始まっているお口に歯ぎしりの力が加わると、歯槽骨の破壊が劇的に促進され歯の寿命を大幅に縮めてしまうのです。

歯周病を助長させる歯ぎしり

✅ ④ 顎関節症を引き起こす

顎の関節に過剰な負担がかかり続けることで、「顎が痛い」・「口が開かない」といった顎関節症の症状を引き起こします。

✅ ⑤ 慢性的な頭痛・肩こり・首のこり

歯を食いしばる際に使う筋肉(咀嚼筋)は、頭の横にある側頭筋や首・肩の筋肉と繋がっています。夜間の過緊張が、朝起きた時の原因不明の頭痛や慢性的な肩こりの原因となります。

歯ぎしり原因の肩凝り

✅ ⑥ エラが張って、顔が大きく見える

食いしばりによって、顎の骨や筋肉(咬筋)が筋力トレーニングのように過剰に発達してしまい、顔のエラが張ってホームベース型の輪郭になることがあります。御本人は気が付いてらっしゃいませんので、女性の方にレントゲン等でお話しすると「エラが張ってきちゃう犯人(原因)は、自分だったのかぁ~・・・」と驚かれることもあります。
夜毎鍛えているのですから無理もありません。

歯ぎしり原因と思しきエラの張り具合

✅ ⑦ 睡眠の質が低下する

歯ぎしりをしている間は、体は緊張状態にあり脳も完全には休めていません。朝起きた時に、熟睡感がなく疲れが取れていないと感じる一因となります。

✅ ⑧ 歯の根が割れる(歯根破折)

過剰な力がかかり続けることで、歯の根そのものにヒビが入ったり割れたりすることがあります。歯根破折は、残念ながら、ほとんどのケースで抜歯が必要となります。


お口の中に「歯ぎしりの証拠」はありませんか?

歯ぎしりは、ご自身では気づきにくいものですが、お口の中にはその破壊的な力が加わった「証拠」がくっきりと刻まれていることがよくあります。鏡を持ってご自身のお口の中をチェックしてみてください。

✅① 下の前歯が上の歯に隠れて見えなくなっている

にぃ~っとした際に、下の前歯が見えにくい方は要注意です。長年の歯ぎしりによって奥歯がすり減って、全体の噛み合わせが低くなり上の前歯の被さりが異常に深くなっている(過蓋咬合)可能性があります。

過蓋咬合を引き起こす歯ぎしり(下顎前歯部が上顎前歯部に覆われている)

✅② 顎の骨が、モコッと硬く隆起している(骨隆起)

下の歯の内側の歯ぐきや上顎の真ん中あたりを指で触ってみてください。そこに、硬い骨のコブのような「出っ張り(骨隆起)」はありませんか? これは、歯ぎしりによる過剰な力が長年にわたって顎の骨にかかり続けた結果、骨が体を守ろうとして異常に増殖したものとされています。歯ぎしりをしている方の、非常に典型的なサインです。

歯ぎしり由来と思われる上顎の骨隆起
歯ぎしり由来と思われる下顎の骨隆起

表側にもある方は、相当なる力が加わってらっしゃろうかと想像致します。

唇側・頬側にまで見られる骨隆起
唇側・頬側にまで見られる骨隆起

歯ぎしりの主な原因と、歯科医院での治療法

歯ぎしりの明確な原因は、まだ完全には解明されていませんが、ストレスが最大の要因と考えられています。その他、噛み合わせの問題や特定の生活習慣(飲酒・喫煙など)も関わっているとされます。

歯ぎしりの原因とされるストレス

残念ながら、歯ぎしりそのものを「完全に止める」という根本的な治療法は、まだ確立されていません。そのため、歯科医院での治療は、歯ぎしりによる破壊的な力から、あなたの歯と顎を「守る」ことを目的とします。

最も確実な防御策:「ナイトガード(夜間用マウスピース)」

最も一般的で効果的な治療法が、就寝中に装着するオーダーメイドの「ナイトガード(スプリント)」です。これは、患者さん一人ひとりの歯型に合わせて透明な樹脂で作製するマウスピースです。

カテゴリーイメージ⑰

ナイトガードの3大効果

① 歯の保護

歯ぎしりの力を、マウスピースが身代わりとなって受け止めることで、歯がすり減ったり割れたりするのを防ぎます。

② 顎関節と筋肉の保護

マウスピースの厚みの分だけ噛み合わせが高くなることで、顎の関節がリラックスした位置に導かれ筋肉の緊張を和らげます。

③ 力の分散

歯ぎしりの力を、特定の歯だけでなく全ての歯に均等に分散させることで、一本一本の歯にかかる負担を軽減します。

当院では、患者さんの噛み合わせや顎の動きを精密に診断し、最適な厚みと硬さの完全オーダーメイドのナイトガードを作製しています。市販のものとはフィット感も効果も全く異なります。気になる症状があれば、手遅れになる前にぜひ一度ご相談ください。

意外な原因?「逆流性食道炎」との関連

最近の研究で、胃から食道へ胃酸が逆流する病気「逆流性食道炎」と歯ぎしりの間に密接な関係があることが指摘されています。
これには2つの側面があります。一つは、逆流した強力な胃酸が歯を直接溶かしてしまう「酸蝕症」のリスクです。そしてもう一つが、睡眠中に逆流した胃酸を唾液で中和しようとする防御反応として無意識に歯ぎしりが誘発されるという可能性です。
胸焼けなどの症状がある方は、消化器内科の専門医と連携して治療を進めることも重要です。


その他のアプローチと、ご自宅でのセルフケア

当院では、ナイトガードによる治療を基本としながら、症状に応じて以下のような補助的なアプローチや、ご自宅でできるセルフケアを組み合わせて総合的な改善を目指します。

✅① 噛み合わせの精密な調整

特定の詰め物や被せ物が、ほんの少しだけ高くて歯ぎしりの「引き金」になっている場合があります。その場合は、原因となっている部分をミクロン単位で精密に調整することで症状が劇的に改善することがあります。
かつては「噛み合わせの異常」が歯ぎしりの主な原因と考えられていた時代もありました。ですが、現在では「噛み合わせだけが、歯ぎしりの直接的な原因である」という考え方はほとんどされなくなりました。
「特定の詰め物が明らかに高くて、どう考えてもそれが引き金になっている」といった稀なケースを除き、歯を削るような元に戻せない噛み合わせの調整を歯ぎしり治療の第一選択とすることはない・・・というのが現代のコンセンサスかと思います。

✅② お口周りの筋肉マッサージ

歯ぎしりによって過度に緊張した筋肉(特にエラのあたりにある咬筋)を、ご自身で優しくマッサージしてあげることで、こりや痛みを和らげることができます。言わば理学療法と言ったところでしょうか。具体的な方法は当院の歯科衛生士が丁寧に指導します。

✅③ 良質な睡眠を心掛ける

ストレスを軽減し睡眠の質を高めることも歯ぎしりの緩和に繋がります。就寝前のスマートフォンの使用を控えたり、カフェインやアルコールの摂取を避けたりするなどリラックスできる環境を整えましょう。

歯ぎしりに対しての対策①
歯ぎしりに対しての対策②

✅④ 薬物療法

痛みが非常に強い、あるいは顎の筋肉の緊張が極度に高いなど、重度の症状がある場合には、ごく短期間、筋肉の緊張を和らげるお薬(筋弛緩薬)を処方することもあります。ただし、これはあくまで一時的な対症療法です。
口腔外科を紹介しますので、そちらでのご相談をオススメ致します。
日本補綴歯科学会のガイドラインによれば薬物療法は推奨されません。また、顔のシワ取りなど美容診療にも用いられるボトックス(ボツリヌストキシン)治療が歯ぎしり治療に際して噛む力をコントロール(筋肉の働きを和らげる)するために行われたりもするようですが、これも学会では推奨されないとされています。
あくまでも自己責任でやって下さいって事になろうかと思います。

✅⑤ 自己暗示療法

「自己暗示」と聞くと、非科学的に聞こえるかもしれません。しかし、「寝る前に、『私は今夜は歯ぎしりをしない』と、自分に優しく言い聞かせる」という方法は、リラックス効果を高め無意識の行動に働きかける認知行動療法の一環として効果がある場合もあります。
いつだったか、NHKの『ためしてガッテン』でも取り上げられてましたが、就寝前に20回ほど呟くだけでも効果があるそうです。たったそれだけのことでも意外にも4割程度軽減されるって言うんですから人間の心と体の連係プレーってのは実に不思議なモノであります。

NHKの「ためしてガッテン」で実験されてた歯ぎしり防止の為の自己暗示法

その「癖」、あきらめる前にご相談ください

歯ぎしりは、ご自身では気づきにくい無意識の行動です。しかし、それを放置すれば、大切な歯や顎に取り返しのつかないダメージを与えてしまう可能性があります。
朝の顎の疲れやご家族からの指摘など、少しでも心当たりがあればぜひ一度私たち専門家にご相談ください。あなたの大切な歯を、夜間の見えない力から守る最善の方法を一緒に見つけましょう。

執筆・監修歯科医

夜間の無意識から
あなたの歯を守る