あなたの歯周病がなかなか治らない本当の理由。それは、夜中や日中の無意識の「癖」に隠されているのかもしれません。
「夜、歯ぎしりをしていると家族に言われた」
「仕事中、気づくと歯をぐっと食いしばっている」
「リラックスしている時も、上下の歯がくっついているのが普通だ」
もし、このようなご経験に心当たりがあれば、それは、単なる「癖」では済まされない歯周病を深刻化させる危険なサインかもしれません。
今回は、多くの方が見過ごしがちな「歯ぎしり」や「歯列接触癖(TCH)」といった無意識の習慣が、いかに歯周病の進行に深刻なダメージを与えるか、その、科学的根拠(エビデンス)に基づいたメカニズムを分かりやすく解説します。

歯周病の「本当の犯人」はあくまで細菌です
まず、大前提としてご理解いただきたいのは、歯周病を引き起こす直接的な根本原因は「細菌(プラーク)」であるという事実です。 歯磨きが不十分で、歯と歯茎の境目にプラークが溜まり、そこ、細菌が繁殖して炎症を起こす・・・これが歯周病の全ての始まりです。

極端な話、プラークが全くない完璧に清潔なお口の中であれば、どれだけ強く歯ぎしりをしても、それだけで歯周病になることはありません。
では「歯ぎしり」や「TCH」は何をしているのか?
では、歯ぎしりやTCHは無関係なのでしょうか? いいえ、そんな事は無いのです。全く違います。 それらは歯周病という犯罪における「主犯(細菌)」の犯行を手助けし、被害を何倍にも拡大させてしまう極めて悪質な「共犯者」なのです。
この関係は、「地震」と「建物の耐震強度」に例えると非常に分かりやすいです。
- 地震 = 歯周病菌による炎症 ・・・建物を破壊する直接的な力です。これがなければ建物は倒れません。
- 建物 = 歯とそれを支える骨(歯槽骨)
- 低い耐震強度 = 歯ぎしり・TCHによる過度な力・・・ 耐震強度が低い建物は、小さな地震でも大きく揺すられひびが入り倒壊しやすくなりますよね。それと同じで、歯ぎしりやTCHによって常に過剰な負担がかかっている歯はいわば「耐震強度が著しく低い建物」なのです。
そこに、歯周病菌という「地震」が発生するとどうなるでしょうか? 健康な歯(耐震強度の高い建物)であれば耐えられたかもしれないわずかな炎症(小さな揺れ)でも、過度な力で弱った歯周組織はたやすく破壊され歯を支える骨は加速度的に溶けていってしまうのです。
実際に多くの研究で、歯ぎしりの習慣がある歯周病患者さんは、そうでない方に比べて歯の揺れが大きく歯周ポケットが深くなり骨の破壊が速く進むことが科学的に証明されています。
なぜ、この「癖」の治療が歯周病対策に不可欠なのか
歯周病治療の基本は、もちろんプラークコントロール(歯磨きや歯科医院でのクリーニング)です。これは、「地震」そのものを起こさせない、あるいは小さくするための最も重要な対策です。
ですが、もしご自身に「歯ぎしり」や「TCH」の自覚があるのであれば、それと同時に「建物の耐震強度を上げる」対策も行わなければ片手落ちになってしまいます。
当院では歯周病治療と並行して、
- 就寝時の歯ぎしりから歯を守る「ナイトガード(マウスピース)」の作製
- 日中の無意識の食いしばりを改善するための「TCHの是正指導」 といった、咬合力のコントロールも積極的に行っています。

これは、ただ歯を守るだけでなく、歯周病の進行を食い止め、大切なご自身の歯を一本でも多く生涯にわたって残していくための極めて重要な治療の一環なのです。
心当たりのある方は、ぜひご相談ください
「歯ぎしり」や「TCH」は、ご自身ではなかなか気づきにくい無意識下での習慣です。 もし、
- 朝 起きた時に顎が疲れている
- 歯の先端がすり減ってきた気がする
- 頬の内側や舌に歯の跡がついている
- 集中している時、ふと上下の歯が接触していることに気づく


といった症状に心当たりがあれば、それはお口からの危険信号かもしれません。 歯周病の治療と合わせて、これらの「癖」についても一度私たち専門家にご相談ください。
執筆・監修歯科医
その「癖」を放置すると
歯を失う原因になります
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会