はじめに:「これって、悪い病気じゃないだろうか…」と不安なあなたへ
「お口の中に、何かいつもと違うものができた・・・」
「なかなか治らない口内炎がある・・・」
「舌が、なんだかピリピリと痛む・・・」

歯や歯ぐき以外の、舌や頬の粘膜に異常が現れると「何か悪い病気だったらどうしよう」と大きな不安を感じてしまいますよね。
この記事では、そうしたお悩みを抱える方のために、歯科医院でよくご相談いただく、代表的なお口のトラブルについて症状別にその特徴と原因・対処法を分かりやすく解説していきます。
【最重要】この記事は、あくまで一般的な情報提供を目的としています。自己判断はせず、少しでも気になる症状があれば必ず専門家である私たちにご相談ください。
症状から探す、お口のトラブル一覧
ご自身の症状と、最も近いものを探してみてください。
✅① 口内炎(アフタ性口内炎)
どんな症状?
頬の内側や舌・唇の裏などにできる、白く窪んだ円形の潰瘍です。周りが赤く腫れ、食べ物などが触れると強い痛みを伴います。
主な原因は?
ストレスや疲労、睡眠不足による免疫力の低下、ビタミン不足、口の中を誤って噛んでしまった傷などが引き金となって発症します。
歯科医院ではどうするの?
通常は1〜2週間で自然に治りますが、痛みが強い場合は、症状を和らげ、治癒を早めるための軟膏(ステロイド軟膏など)を処方します。また、レーザーを照射することで、表面をコーティングして痛みを軽減させる治療も効果的です。(もし、同じ場所にできた口内炎が2週間以上経っても治らない、あるいは大きくなるような場合は他の病気の可能性も考えられるため、必ず受診してください)
✅② 舌痛症(ぜっつうしょう)
どんな症状?
見た目には明らかな異常(できものや色の変化など)がないにも関わらず、舌の先や縁が、まるで火傷をしたかのように「ヒリヒリ・ピリピリ」と慢性的に痛む状態です。
主な原因は?
原因が特定できないことも多い非常に複雑な病気です。更年期の女性に多く見られることからホルモンバランスの乱れ、精神的なストレス、亜鉛やビタミンB群などの栄養素の欠乏などが複合的に関わっていると考えられています。
歯科医院ではどうするの?
まず、お口の中を詳細に診査し、鋭利な被せ物や金属アレルギーといった痛みの原因となりうる物理的な要因がないかを徹底的に確認します。歯科的な問題が見当たらない場合は、保湿剤の処方や漢方薬などが有効な場合もあります。医科や口腔外科との連携が必要になることも多い症状です。


✅③ 口角炎(こうかくえん)
どんな症状?
唇の両端である口角が赤く腫れたり、切れて裂けたり、かさぶたができたりする症状です。口を開けるたびに痛みを感じます。
主な原因は?
唾液が溜まりやすいことによる細菌やカビ菌(カンジダ)の感染、あるいはビタミンB群の不足などが主な原因です。入れ歯の高さが合っていない場合にも、口角がたるんで発症しやすくなります。
歯科医院ではどうするの?
原因に応じて、抗菌薬などを処方します。入れ歯が原因の場合は、その調整や作り直しが必要になります。
✅④ 地図状舌(ちずじょうぜつ)
どんな症状?
舌の表面に、赤い部分(舌乳頭が萎縮している)とそれを縁取る白い線状の模様が、まるで地図のように見える状態です。この模様は、日によって形や場所が変化するのが特徴です。

主な原因は?
原因はまだはっきりと分かっていませんが、遺伝的な要因や、ストレス、ビタミン不足などが関わっているとも言われます。
歯科医院ではどうするの?
痛みなどの自覚症状がなければ、特に治療の必要はありません。これは病的なものではなく、一種の「体質」のようなものですので、「心配いりません」ということをご説明し、安心してもらうことが第一です。稀に、ヒリヒリとした痛みを感じる場合はうがい薬や軟膏を処方することがあります。
✅⑤ 扁平苔癬(へんぺいたいせん)
どんな症状?
頬の粘膜を中心に、白いレースのような模様や網目状の模様が現れる比較的まれな自己免疫疾患の一種です。多くは無症状ですが、時に赤くただれたり(びらん型)、食べ物がしみたりすることもあります。
主な原因は?
免疫系の異常が原因と考えられていますが、特定の歯科金属へのアレルギーやC型肝炎ウイルスとの関連も指摘されています。
歯科医院ではどうするの?
症状がない場合は、定期的な経過観察が中心となります。痛みやしみる症状がある場合は、ステロイド軟膏などを処方して炎症を抑えます。ごく稀に、がん化する可能性も報告されているため、専門家による継続的なチェックが非常に重要になる病気です。
✅⑥ 口腔カンジダ症
どんな症状?
頬の粘膜や舌・上顎などに、白い苔のような膜が付着し、ガーゼなどで拭うとその下の粘膜が赤くただれているのが特徴です。「食べ物が飲み込みにくい」・「味が分かりにくい」といった症状を伴うこともあります。
主な原因は?
お口の中に普段から存在するカビの一種「カンジダ菌」が、免疫力の低下(体調不良、ご高齢の方、ステロイド薬の長期服用など)や、入れ歯の清掃不良、お口の乾燥などが原因で異常に増殖してしまうことで発症します。
歯科医院ではどうするの?
うがい薬や、塗り薬・内服薬などを処方します。入れ歯が原因の場合はその清掃指導も徹底して行います。
✅ ⑦ 黒毛舌(こくもうぜつ)
どんな症状?
舌の表面、特に中央から後方にかけて、まるで黒い毛がフサフサと生えているように見える状態です。見た目のインパクトは大きいですが、痛みなどの自覚症状はほとんどありません。

主な原因は?
これは、舌の表面にある「糸状乳頭(しじょうにゅうとう)」という組織が、正常な新陳代謝(剥がれ落ちること)ができずに異常に伸びて長くなってしまうことが原因です。そこに細菌や食べ物の色素などが付着することで黒く着色して見えます。抗生物質の長期服用や、体調不良、喫煙などが引き金となることがあります。
歯科医院ではどうするの?
まず、これが病的なものではないことをご説明し、患者さんに安心してもらうことが第一です。その上で、原因となっている生活習慣の改善指導や、専用の舌ブラシを使った優しい清掃方法の指導を行います。無理にこすり取ろうとすると舌を傷つけてしまうので注意が必要です。
✅ ⑧ 白板症(はくばんしょう)
どんな症状?
歯ぐきや、舌、頬の粘膜などに、こすっても取れない境界がはっきりとした白い板状、あるいは斑点状の病変ができる状態です。通常、痛みはありませんが、表面がただれたり硬くなったりすることもあります。

主な原因は?
合わない入れ歯や、尖った歯による慢性的な刺激・喫煙・過度な飲酒などが主な原因と考えられています。
歯科医院ではどうするの?
これは「前がん病変(がんになる可能性のある病変)」の代表格であり、非常に注意深い経過観察が必要な状態です。まず、原因と考えられる刺激物(合わない入れ歯など)を除去し経過を観察します。病変がなくならない場合や悪性が疑われる場合は、連携する大学病院や専門の口腔外科(いわき市医療センター)をご紹介し、組織の一部を採取して調べる検査(生検)が必要となります。
✅ ⑨ 紅板症(こうばんしょう)
どんな症状?
お口の粘膜に、鮮やかな赤色でビロードのような光沢のある境界がはっきりとした斑点ができる状態です。時に、痛みやしみる感じを伴うこともあります。

主な原因は?
白板症と同じく、喫煙や飲酒、慢性的な刺激などが原因と考えられています。
歯科医院ではどうするの?
紅板症は、白板症よりもさらにがん化するリスクが高い非常に危険な前がん病変です。これを発見した場合、私たちは迷わず、速やかに大学病院や専門の口腔外科(いわき市医療センター)へご紹介します。早期の確定診断と治療開始が何よりも重要です。
✅ ⑩ 舌炎(ぜつえん)
どんな症状?
舌全体が赤く腫れたり、表面のブツブツ(舌乳頭)がなくなってツルツルになったり、食事の際にしみたり、ヒリヒリと痛んだりする舌の炎症全般を指します。

主な原因は?
鉄分やビタミンB群などの栄養不足・ストレス・貧血・薬剤の副作用・全身疾患の一症状など、原因は非常に多岐にわたります。
歯科医院ではどうするの?
まず、お口の中の衛生状態を改善し、刺激の少ない軟膏やうがい薬を処方して症状を和らげます。原因が全身的なものにあると考えられる場合は、内科など適切な診療科の受診をお勧めし、医科との連携を図ります。
✅ ⑪ 舌苔(ぜったい)
どんな症状?
舌の表面に、白や黄色っぽい苔のようなものが付着している状態です。生理的なもので、誰にでもある程度は存在しますが、厚くなると口臭の主な原因となります。




主な原因は?
舌の運動機能の低下や、唾液の分泌量減少・お口の乾燥・体調不良などで、舌の表面の古い細胞や細菌・食べカスがうまく剥がれ落ちずに、溜まってしまうことが原因です。
歯科医院ではどうするの?
まず、これが病気ではないことをご説明します。その上で、口臭の原因になっている場合は専用の「舌ブラシ」を使った1日1回程度の優しい清掃方法を指導します。歯ブラシでゴシゴシと強く磨くのは舌の粘膜を傷つけるため厳禁です。
✅ ⑫ 舌がん
どんな症状?
舌の側面や裏側にできることが多く、初期は「なかなか治らない口内炎」のように見えます。進行すると、硬いしこりができたり表面がカリフラワーのように盛り上がったり、出血や強い痛みを伴うようになります。


主な原因は?
喫煙と過度な飲酒が、最大のリスク因子です。また、合わない入れ歯や尖った歯による慢性的な刺激も発生に関わると考えられています。
歯科医院ではどうするの?
もし、私たちが舌がんを少しでも疑った場合にはその場で患者さんにご説明し、直ちに大学病院や専門の口腔外科(いわき市医療センター)へご紹介します。早期発見・早期治療が、命とその後の生活の質(QOL)を守る上で最も重要だからです。
✅ ⑬ 血腫(血豆)
どんな症状?
頬の粘膜や舌などに、突然、赤黒い血の豆(血豆)ができる状態です。食事中に誤って噛んでしまったり、硬い食べ物が当たったりした際にできることがほとんどです。

主な原因は?
粘膜の下の細い血管が、物理的な刺激で破れて内出血を起こしたものです。
歯科医院ではどうするの?
ほとんどの場合、1〜2週間で自然に吸収されて消えていきますので心配いりません。無理に潰したりせず自然に治るのを待ちましょう。ただし、同じ場所に何度も繰り返しできる、あるいは、なかなか消えない場合は他の病気の可能性も考えられるため一度ご相談ください。
「これって何だろう?」と思ったら、一人で悩まずにご相談を
お口の粘膜にできる病気は、ここに挙げた以外にも数多く存在します。そして、その中にはごく稀に「口腔がん」のような命に関わる深刻な病気が隠れている可能性もゼロではありません。
私たち歯科医師は、歯や歯ぐきだけでなく、舌や頬の粘膜などお口の中全体の健康をチェックする専門家です。定期検診は、虫歯や歯周病だけでなくこうした粘膜の病気を早期発見するための非常に重要な機会でもあります。
インターネットの情報だけで自己判断せず、少しでも気になる症状があれば、どうぞ一人で悩まず私たちに相談してください。その不安を安心に変えるお手伝いをさせていただきます。
執筆・監修歯科医
その“?”という不安を
“安心”に変える場所
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会