「家族からいびきがうるさいと言われる…」
「8時間寝たはずなのに、日中の会議でついウトウトしてしまう」
「朝起きると、どうも頭がスッキリしない」
このようなお悩み、単なる疲れや体質のせいだと思っていませんか? もしかすると、その症状は「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」という病気のサインかもしれません。この病気は、高血圧や心疾患などのリスクを高めることが知られており、決して軽視できません。
そして、その原因の多くが、実は『舌根の沈下』、つまり咀嚼や会話に欠かすことが出来ない舌の筋力の衰えによって気道が塞がれてしまうことにあるのはあまり知られていない事実です。
睡眠時の無呼吸、気になりませんか?
こんにちは、いわき市で診療を行う酒井歯科医院です。
この記事では、歯科医師の立場から睡眠時無呼吸症候群の知られざる原因と、当院でご提供しているマウスピース(スリープスプリント)治療、そしてご自身でできる口腔機能の改善策について、専門用語をなるべく避けて分かりやすく解説していきます。

放置は危険!睡眠時無呼吸症候群と「舌の衰え」の深い関係
そもそも「睡眠時無呼吸症候群」とは?
睡眠時無呼吸症候群とは、その名の通り「睡眠中に呼吸が浅くなったり、数十秒間止まったりすることを繰り返す病気」です。呼吸が止まるたびに体の中は酸欠状態になり、脳や心臓・血管に大きな負担がかかります。
この状態が毎晩続くと、日中のパフォーマンスが低下するだけでなく、将来的には命に関わる病気につながる可能性もあるのです。
このトラブルは、激しいいびきや日中の強い眠気、起床時の頭痛などの症状を引き起こすだけでなく、高血圧や心臓病・脳卒中などの生活習慣病のリスクを高めることが知られています。気になる症状がある場合は、早めに専門の医療機関を受診することが大切です。

実際問題として、患者さんのほとんどが閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)で、文字通りに空気の通り道である「上気道(のどや鼻)」が物理的に狭くなる、または完全に塞がってしまうことで起こると言われています。


閉塞性睡眠時無呼吸症候群の主な原因
肥満
最も多い原因とされています。首周りやのど、舌に脂肪がつくことで気道が圧迫されて狭くなります。ただし、日本人を含むアジア人は欧米人に比べて骨格が小さいため、やせている人でも発症することがあります。
あごの骨格
あごが小さい、下あごが後退している、あごの幅が狭いなどの場合、舌がのどの奥に落ち込みやすく、気道を塞ぎやすくなります。
扁桃肥大・アデノイド
特に子どもの場合、のどにある扁桃や鼻の奥にあるアデノイドが大きいと、気道を狭める原因になります。

舌の大きさ
舌が大きい(巨舌症)と、仰向けに寝たときに舌の根元がのどに沈み込み(舌根沈下)、気道を塞ぎやすくなります。
鼻の病気
鼻中隔弯曲症(鼻の左右を仕切る壁が曲がっている状態)やアレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎(ちくのう症)などによる鼻づまりがあると、口呼吸になりやすく、のどが狭まる原因となります。
加齢
年齢とともに、のどの周りの筋肉が衰え、睡眠中に気道が塞がりやすくなります。
生活習慣
飲酒
アルコールには筋肉を緩める作用があるため、就寝前に飲むとのどの筋肉が緩み、気道が狭くなりやすくなります。
睡眠薬
種類によっては、筋弛緩作用があり、症状を悪化させることがあります。
喫煙
喫煙は、のどの粘膜に炎症を引き起こし、気道を狭くする一因となります。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状は?
下記のような症状に心当たりはありませんか?
- 大きないびき(特に、いびきが一旦止まり、大きな呼吸とともに再開する)
- 日中の耐えがたい眠気、集中力の低下
- 起床時の頭痛や、熟睡感のなさ
- 夜中に何度もトイレに起きる

いびきの最大の原因は、喉(のど)に落ちる「舌」にあった
では、なぜ睡眠中に呼吸が止まってしまうのでしょうか。原因の多くは、空気の通り道である上記の様な原因のために「上気道」が物理的に狭くなることで起こります。
そして、その最大の原因こそが『舌根の沈下』です。
私たちは眠ると、全身の筋肉が緩みます。もちろん、舌も筋肉の塊ですから、筋力が低下していると仰向けになった際に重力に負けて喉の奥へと落ち込んでしまうのです。これが「舌根の沈下」であり、まるで喉にフタをして空気の通り道を塞いでしまうような状態を引き起こします。

実際問題として睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因は多岐にわたり、単一の要因で説明することはおそらくできませんでしょう。しかしながら、舌根沈下は、特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)において、気道閉塞を引き起こす極めて重要な物理的メカニズムであり、決して大袈裟な表現ではないというのが現在の医学的な共通認識かと思われます。
舌根沈下が「主要因」とされる理由
様々な原因が絡んで起こってることは間違いがありませんでしょう。
睡眠中の生理的変化
覚醒時と異なり、睡眠中(特にレム睡眠時)は全身の筋肉が弛緩します。舌を前方に保持する役割を持つオトガイ舌筋ってやつも例外ではなく、その活動・・・すなわち舌を引っ張る力が低下します。
重力の影響
特に仰向けで寝ている場合、弛緩した舌は重力によって後方、つまり喉の奥へと落ち込みやすくなります。これが「舌根沈下」です。
気道の物理的閉塞
舌は筋肉の塊であり、かなりの体積があります。その舌の付け根(舌根)が咽頭後壁に接触、あるいは極端に接近することで、空気の通り道である上気道は物理的に狭窄または完全に閉塞してしまいます。これが無呼吸・低呼吸の直接的な原因となります。

歯科領域との密接な関連
舌根沈下の起こりやすさには、顎顔面の骨格形態が大きく関与しています。
下顎の後退・狭小さ
日本人を含むアジア人は、欧米人と比較して下顎が後退していたり、小さい(小下顎症)傾向があります。これにより、口腔内の容積が元々小さく、舌が収まるスペースに余裕がありません。そのため、少しの筋弛緩や体重増加でも舌が後方に押しやられやすく気道閉塞のリスクが非常に高くなります。肥満でなくてもSASを発症する方が多いのは、この骨格的特徴が一因と言われています。
低位舌
舌が本来あるべき上顎口蓋の位置ではなく、常に低い位置にある「低位舌」も舌根沈下を助長します。これは口呼吸の習慣とも関連が深く、歯科領域での指導が重要になる部分かと思われます。
昨今、叫ばれて久しい「口腔機能発達不全」にもこの「低位舌」が大きく関わって来るのですが、と言うことはそういったお子さん達が数十年後に罹患する確率を考えると、チョイと恐ろしいことが起こりそうにも考えられます。
睡眠時無呼吸の主要な原因と考えられる舌根沈下
したがって、「舌根沈下」を睡眠時無呼吸の主要な原因と表現することは、多くの症例における閉塞の直接的なメカニズムを的確に捉えたものであり、特に歯科的視点から見ても、患者さんの骨格的特徴と睡眠中の生理現象を結びつける上で非常に重要な概念と言えますでしょう。
もちろん、肥満による気道周囲の脂肪沈着、扁桃肥大、軟口蓋の形態なども重要な要因であり、患者さんごとに主たる原因は異なります。しかし、それらの要因があったとしても、最終的に気道を塞ぐ「引き金」となるのが舌根沈下であるケースは非常に多いのが実情かと考えられます。
あなたは大丈夫?「舌の衰え(口腔機能低下)」セルフチェック
舌根沈下は、言い換えれば「舌の筋力不足」が根本的な原因です。これは「口腔機能の低下」とも呼ばれ、ご自身の生活習慣を振り返ることで、そのサインに気づくことができます。
以下の項目に、一つでも当てはまるものはありませんか?
- 最近、食事中によくむせる、食べこぼすようになった
- 昔より硬いものが食べにくくなったと感じる
- 滑舌が悪くなった、短い言葉でしか話さなくなった
- 気づくとお口がポカンと開いていることが多い(口呼吸)
- 口の中がよく乾き、ネバネバする
もし一つでも当てはまるなら、それは舌の機能が低下しているサインかもしれません。そして、それが夜間のいびきや無呼吸に繋がっている可能性があります。
臨床において、口腔内装置となるマウスピース(スリープスプリント)の作製などで下顎を前方に移動させるのは、まさにこの舌根沈下を防ぎ、舌後方の気道スペースを確保することが主目的の一つかと思われます。その点からも、舌根沈下の重要性をご理解いただけるかと思います。

【いわき市の歯医者】睡眠時無呼吸症候群に歯科ができること
医科と連携し、お口の専門家としてサポートします
睡眠時無呼吸症候群の確定診断は、内科や呼吸器内科・耳鼻咽喉科などの専門医が行います。睡眠中の呼吸状態を調べる専門的な検査が必要です。私たち歯科医師は、その診断に基づき、お口の専門家として治療の選択肢をご提供する役割を担います。
特に、軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群と診断された方には、歯科での治療が非常に有効な場合があります。いわき市にあります酒井歯科医院では、地域の医療機関としっかりと連携(医科歯科連携)を取りながら、患者さんへの適切な情報提供と治療に取り組んでいます。
オーダーメイドの「マウスピース(スリープスプリント)」で気道を確保
歯科で行う代表的な治療が、就寝中に装着する特殊なマウスピース(専門的にはスリープスプリントと呼びます)の作製です。
このマウスピースは、下の顎を数ミリ程度、少し前方に突き出させた状態で固定する装置です。下の顎が前に出ることで、それに連動して舌も前方に引き出され、喉の奥に落ち込む「舌根の沈下」を物理的に防ぎます。これにより、睡眠中の気道が広がり呼吸がしやすくなるのです。
市販のいびき防止グッズとは異なり、歯科医師が患者さん一人ひとりの歯型を精密に採って作製する完全オーダーメイド品です。そのため、お口にしっかりとフィットし、違和感が少なく、高い治療効果が期待できるのが大きな強みです。当院では、このマウスピース作製に力を入れています。

ご安心ください、マウスピース治療は保険適用です
「治療となると費用が心配…」という方も多いかと思います。
ご安心ください。内科などの専門医から「睡眠時無呼吸症」の診断を受け、紹介状(診断情報提供書)をお持ちいただければ、歯科医院でのマウスピース作製は健康保険が適用されます。
まずは専門医を受診し、ご自身の状態を正確に把握することが治療の第一歩となります。
(歯科単独での加療は、保険制度上認められておりません)
スリープスプリントの欠点
実際問題としては、スリープスプリントに適さない方がいらっしゃいます。歯周病が酷い方です。
下の顎(あご)を前に出すことを目的にするスリープスプリントですが、それを支えるのは歯です。当然、元に戻ろうとする復元力が一晩中かかり続けることになりますので、グラついた歯が多数歯に渡る歯周病の方は歯が耐えられないと考えられます。
私も内科の先生に御依頼いただいた際に、歯周病の問題があり歯が耐えられないと判断してお断りをした経験がありました。
睡眠時無呼吸症候群とマウスピース治療のよくあるご質問(FAQ)
Q1. どんな人に睡眠時無呼吸症候群は多いですか?
A. 肥満傾向の方、顎が小さい・細い方、首が短い・太い方、扁桃腺が大きい方など、骨格的な特徴をお持ちの方によく見られます。また、加齢による筋力の低下や、日常的な飲酒・喫煙の習慣もリスクを高める要因です。男性に多いとされていますが、女性も閉経後にはホルモンバランスの変化でリスクが上がることが知られています。
Q2. マウスピースをすれば、いびきは完全になくなりますか?
A. 多くの方でいびきや無呼吸の回数が大幅に改善し、日中の眠気などが軽減されます。しかし、効果には個人差があり、重症度や骨格によっては完全になくならない場合もあります。重症の方にはCPAP(シーパップ)という別の治療法が適している場合もあり、マウスピース治療が最適かどうかは、医科の診断と歯科での診察の上で判断いたします。
Q3. マウスピースの装着に違和感はありますか?慣れますか?
A. はい、最初は多少の違和感や、朝起きた時の顎のだるさを感じることがあります。しかし、完全オーダーメイドで作製するためお口への適合は良く、ほとんどの方は1〜2週間ほどで慣れて快適に使えるようになるようです。当院では、完成後も微調整を重ねて、患者さんが無理なく継続できるようサポートしますのでご安心ください。
Q4. 歯ぎしり用のマウスピースとは違うのですか?
A. はい、全くの別物です。歯ぎしり用のマウスピース(ナイトガード)は、主に歯や顎への負担を軽減することが目的です。一方、睡眠時無呼吸症候群用のマウスピース(スリープスプリント)は、下の顎を意図的に前方に移動させて気道を確保することを目的としています。自己判断でナイトガードを代用すると症状が悪化する可能性もあり危険ですので、必ず専門家の診断のもと、目的に合った装置を使用してください。
Q5. マウスピース以外に、自分でできる対策はありますか?
A. はい、舌根沈下の根本原因である「舌の筋力」を鍛える口腔機能訓練が非常に重要です。また、横向きに寝る、枕の高さを調整する、アルコールの摂取を控える、減量するといった生活習慣の改善も効果が期待できます。マウスピース治療と並行して行うことで、より高い効果を目指せます。
Q6. 「舌のトレーニング」とは、具体的にどんなことですか?
A. 代表的なものに「あいうべ体操」があります。特別な道具は不要で、いつでもどこでも行えます。

- 「あー」と口を大きく開く
- 「いー」と口を横に大きく広げる
- 「うー」と唇を強く前に突き出す
- 「べー」と舌を顎の先につけるようなイメージで思い切り下に伸ばす

これを1セットとし、毎日30セットを目安に続けてみてください。舌や口周りの筋肉が鍛えられ、舌根の沈下を防ぐことに繋がります。
Q7. 相談したい場合、まずはいきなり歯医者に行っても良いですか?
A. はい、もちろんです。いびきや眠気など、気になる症状があれば、まずは当院のような歯科医院にご相談いただいて構いません。お話を詳しく伺い、お口の中の状態を拝見した上で、マウスピース治療の適応となりそうか、あるいは先に専門の医療機関(内科・呼吸器内科など)を受診すべきかなどを丁寧にご案内いたします。一人で悩まず、まずはお声がけください。
まとめ:気になるいびきは、いわき市の歯医者にご相談ください
今回は、睡眠時無呼吸症候群の危険性と、その大きな原因である『舌根の沈下』、そして歯科医院でできるマウスピース治療やご自身でのケアについて解説しました。
「たかがいびき」と軽く考えず、お口の機能を見直すことが、ご自身の、そしてご家族の健やかな毎日を守る第一歩です。舌の機能低下は、睡眠時の問題だけでなく、将来の食事や会話、誤嚥(ごえん)のリスク(口腔機能低下症)にも深く関わってきます。
いわき市の【酒井歯科医院】では、患者さん一人ひとりのお口の状態をしっかり拝見し、最適なアドバイスと治療のご提供を心掛けております。睡眠時無呼吸症候群に関するご相談や、マウスピース作製にご興味のある方は、どうぞお一人で悩まず、まずはご相談ください。
お電話でのお問い合わせ、またはWebからのご予約も承っております。
電話番号:0246-31-1000
執筆・監修歯科医
静かな夜と
すっきりした朝のために
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会