はじめに:「お口の中」は、体全体の「入り口」です
「歯周病は、歯ぐきの病気でしょ?」
そう考えている方がほとんどかもしれません。ですが、その認識はもう古いものになりつつあります。
近年の世界中の研究によって、歯周病が、単なるお口の中の問題に留まらず糖尿病・心疾患・脳梗塞、さらには認知症や特定のがんのリスクまでをも高める、全身の健康を脅かす非常に危険な病気であることが次々と明らかになってきました。

この記事では、なぜ、お口の中の小さな細菌がこれほどまでに全身に悪影響を及ぼすのか・・・その恐ろしいメカニズムについて、一つひとつ詳しく解説していきます。
歯周病菌が、血管を通って全身を駆け巡る
全ての物語の始まりは、歯周病によって常に炎症を起こし出血しやすくなっている歯ぐきです。
歯ぐきは、無数の毛細血管が張り巡らされている非常にデリケートな組織です。歯周病によってこの歯ぐきのバリア機能が破壊されると、そこから歯周病菌そのものや歯周病菌が作り出す「毒素(炎症性物質)」が、いとも簡単に血管内に侵入してしまいます。

そして、血流に乗った歯周病菌や毒素は、まるで全身の高速道路を旅するかのように心臓・脳・血管・膵臓(すいぞう)といった体のあらゆる重要な臓器へと到達してしまうのです。
歯周病との関連が指摘される、代表的な全身疾患
血流に乗って全身に運ばれた歯周病菌や毒素は、それぞれの場所で様々な悪さを働きます。

✅ ① 糖尿病との深刻な相互関係
歯周病は、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の働きを悪くすることが分かっています(インスリン抵抗性)。これにより血糖値のコントロールが困難になり糖尿病を悪化させます。
逆に、糖尿病の方は、体の免疫力が低下し歯周病が非常に重症化しやすいことも知られています。歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼし合う「負の相関関係」にあるのです。

✅ ② 心疾患・脳梗塞の引き金に
血管内に侵入した歯周病菌は血管の壁に付着し、そこで炎症を起こします。この炎症が、「アテローム性プラーク」と呼ばれる動脈硬化の原因となる血管内の「コブ」の形成を促進することが分かっています。
このコブが大きくなって血管を塞いだり剥がれて飛んでいったりすることで、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気の引き金となります。

✅ ③ ご高齢者の命を脅かす「誤嚥性肺炎」
ご高齢になり飲み込む力(嚥下機能)が低下すると、お口の中の歯周病菌が、唾液や食べ物と一緒に誤って気管や肺に入ってしまうことがあります。これが、特にご高齢の方の死因の上位を占める「誤嚥性肺炎」の大きな原因となります。お口の中を清潔に保つことは肺炎予防に直結するのです。

✅ ④ 妊娠中の女性にも。早産・低体重児出産のリスク
妊娠中の女性が重度の歯周病にかかっていると、血中に入り込んだ歯周病菌の影響が子宮の収縮を促し胎児の成長に影響を及ぼすことで早産や低体重児出産のリスクが高まることが指摘されています。生まれてくる大切な赤ちゃんのためにも妊娠中の口腔ケアは非常に重要です。

✅ ⑤ アルツハイマー型認知症との関連
近年、アルツハイマー型認知症で亡くなった方の脳内から歯周病菌が発見されたという衝撃的な研究が発表されました。歯周病菌が、認知症の原因物質である「アミロイドβ」の蓄積を促し症状を悪化させるのではないか・・・と、現在、世界中で研究が進められています。

「歯のケア」はすなわち「命のケア」です
歯周病のケアは、もはやお口の中だけの問題ではありません。それは、あなたの、そしてあなたの大切な家族の未来の健康寿命を守るための最も身近で最も効果的な全身の健康管理なのです。
私たち「かかりつけ歯科医」は、その最も重要な入り口であるお口の健康を守る生涯のパートナーです。気になる症状があれば放置せず、ぜひ一度ご相談ください。
執筆・監修歯科医
お口は、命の入り口
だから、私たちが守る
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会