はじめに:「最近、食事の時にむせやすくなった…」そのサイン、見過ごしていませんか?
「硬いものが食べにくくなった」
「お茶やお味噌汁で、よくむせるようになった」
「滑舌が悪くなって聞き返されることが増えた」
こうしたお口周りのささいな機能の衰え。多くの方が「もう年だから仕方ない」とあきらめてしまっているかもしれません。ですが、それは全身の健康を脅かす重要な危険信号(SOSサイン)である可能性があります。

この、加齢に伴うお口の機能のいわば“虚弱”の状態を「オーラルフレイル」と呼びます。この記事では、この見過ごされがちな問題の正体と、健康で豊かな老後を送るために今からでも始められる対策について詳しく解説していきます。

オーラルフレイルの恐ろしい悪循環
オーラルフレイルは、単にお口の中だけの問題では決してありません。それは、以下のような恐ろしい「負のスパイラル」の入り口なのです。
お口の機能低下(噛めない・飲み込めない)
↓
食事が偏り、栄養状態が悪化
↓
全身の筋力が、さらに低下
↓
活動意欲が低下し、社会との繋がりが希薄に
↓
心身の機能が、さらに低下(フレイル・サルコペニア・要介護状態へ)
この悪循環をどこかで断ち切ること。それこそがあなたの「健康寿命」を延ばすための最も重要な鍵となります。

あなたは大丈夫?「オーラルフレイル」危険度セルフチェック
以下の質問にいくつ当てはまるか、チェックしてみてください。
- ✅ 半年前に比べて硬いものが食べにくくなった
- ✅ お茶や汁物でむせることがある
- ✅ 義歯(入れ歯)を入れていない
- ✅ 口の渇きが気になる
- ✅ 半年前に比べて外出の頻度が減った
- ✅ 歯磨きをあまりしていない
3つ以上当てはまる方はオーラルフレイルの危険性が高い状態です。是非一度ご相談ください。

歯科医院で始める「オーラルフレイル対策」
「年のせい」とあきらめる必要はありません。適切な介入とトレーニングで、お口の機能は何歳からでも維持・向上させることができます。
🟨 ① まずは現状を「知る」ことから ― 口腔機能検査
当院では、専用の機器を使いあなたのお口の機能が今どのような状態にあるのかを観的な「数値」で評価します。
Ⅰ.舌圧測定(ぜつあつそくてい)
食べ物を正しく飲み込んだり、発音したりするために不可欠な「舌の筋力」を専用の機器で客観的な数値として測定します。

Ⅱ.咀嚼能力検査(そしゃくのうりょくけんさ)
「どれだけ効率よく食べ物を噛み砕けているか」という、噛む力がどれくらい維持されているかを専用の装置で測定します。

Ⅲ.舌・唇の滑らかさの検査(健口くん)
「パ」・「タ」・「カ」といった音を、できるだけ速くリズミカルに発音していただき、1秒間に何回、舌や唇を滑らかに動かせるかを測定します。この検査により、お口全体の巧緻性(こうちせい)と呼ばれる器用さのレベルを客観的な数値で評価することができます。


🟨 ② あなただけの「お口のリハビリ計画」
検査結果に基づき、歯科医師や専門の訓練を受けた歯科衛生士があなたに合った「お口のトレーニング(口腔機能訓練)」のメニューを作成・指導します。ご自宅で毎日続けられる簡単な体操が中心です。
🟨 ③「噛めるお口」を取り戻す ― 歯科治療
もちろん、合わない入れ歯や治療していない虫歯・歯周病があればお口の機能は十分に発揮できません。入れ歯の精密な調整や適切な歯科治療を行い、しっかりと「噛める」土台を最初に取り戻すことが何よりも重要です。
🟨 ④ プロによる徹底的な「口腔ケア」
お口の中を清潔に保つことは、お口の機能を維持するだけでなく全身の健康を守る上でも非常に重要です。特に、ご高齢の方の死因の上位を占める「誤嚥性肺炎」は、お口の中の細菌が肺に入ることで発症します。定期的なプロによる口腔ケアでそのリスクを大幅に低減できます。
「食べる喜び」を生涯にわたって
自分の口で美味しく安全に食事を食べられること。それは、私たちの人生の最後の最後まで失いたくない根源的な喜びです。

その喜びを一日でも長く守り続けるために。私たちかかりつけ歯科医は、あなたの生涯のパートナーです。気になる「ささいな衰え」があれば、どうぞ私たちにご相談ください。
執筆・監修歯科医
健康寿命は
お口から延ばせます
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会