冷たいものを口にした瞬間、歯がしみてしまって楽しめていますか?
「そのうち治るだろう」という油断が、将来、あなたの歯の寿命を縮めてしまうかもしれません。
冷たい飲み物やアイスクリームを食べた瞬間、歯に「キーン!」と走る鋭い痛み。あなたも、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

多くの方が「むし歯かな?」と心配されますが、もし痛みが一時的ですぐに収まるなら、それは「知覚過敏」のサインかもしれません。「むし歯じゃないなら、ひとまず安心」とつい放置してしまいがちですが、実はその判断が将来、より大きなトラブルを引き起こす引き金になることがあるのです。
最近の調査では、特に20代〜30代の若い世代の約6割が「歯がしみることがある」と回答しているにも関わらず、そのうちの約8割が特別なケアをせずに放置しているというデータもあります。 今回は、この身近でありながら軽視されがちな「知覚過敏」を放置することの本当の怖さについて専門家の視点から解説します。
なぜ「知覚過敏」は起きるのか?
私たちの歯は、体の中で一番硬い「エナメル質」という鎧(よろい)で覆われています。ですが、、その内側には「象牙質(ぞうげしつ)」という神経に繋がる無数の小さな管(象牙細管)が通った敏感な層があります。

何らかの原因でエナメル質が削れたり歯ぐきが下がったり(歯肉退縮)してこの象牙質が剥き出しになってしまうと、冷たいものなどの刺激が神経に直接伝わり「キーン!」という鋭い痛みを感じるのです。これが知覚過敏の正体です。
知覚過敏を放置する3つの深刻なリスク
「しみるのを我慢すればいいだけ」と軽く考えてはいけません。知覚過敏の放置は、お口の中の健康のバランスを静かに、そして確実に崩していきます。
リスク1:むし歯・歯周病の「負のスパイラル」に陥る
最も頻繁にみられる最悪のケースです。 歯がしみると、その部分を無意識に避けて歯磨きをしてしまいがちになります。その結果、磨き残されたプラーク(歯垢)が蓄積し、そこから新たなむし歯や歯周病が発生・悪化するという負のスパイラルに陥ってしまうのです。重度の歯周病は、糖尿病や誤嚥性肺炎など全身の深刻な疾患に繋がることも分かっています。
リスク2:食事の楽しみが奪われ、栄養バランスも崩壊
冷たいもの、熱いもの、酸っぱいもの、甘いもの・・・
しみるのが怖くて食べたいものを我慢するようになると、食事の楽しみは半減してしまいます。 それだけでなく、食べるものが偏ることで栄養バランスが崩れ、全身の健康に影響を及ぼす可能性も指摘されています。
リスク3:最悪の場合、歯の神経を抜くことに
知覚過敏を長期間放置し症状が悪化すると歯の内部の神経にまで炎症が及んでしまうことがあります。痛みが持続するようになったり細菌感染を起こしたりすると、もはや神経を温存することは難しくなり、最終的には「根管治療(歯の神経を抜く処置)」が必要になるケースも少なくありません。
「もしかして?」と思ったら、すぐにできる対処法
知覚過敏のサインに気づいたら、まずはご家庭でのセルフケアを見直してみましょう。
知覚過敏ケア用の歯磨き粉を使う
歯磨き粉の成分表示を見て、「硝酸カリウム」や「乳酸アルミニウム」が含まれているものを選んでみてください。これらの成分は神経への刺激をブロックする働きがあります。最近では、ホワイトニングや口臭予防など様々な機能がプラスされた製品もあります。


「ゴシゴシ磨き」をやめる
硬い歯ブラシで力を入れて磨くと、エナメル質が削れ歯ぐきが下がる直接的な原因になります。鉛筆を持つように歯ブラシを軽く持ち、優しい力で磨くことを心がけましょう。

そして、最も重要なのは「自己判断せずに、まずはかかりつけの歯科医院を受診する」ことです。 その「しみる」症状が本当に知覚過敏なのか、あるいは、気が付きにくい隣接面のむし歯であればレントゲン等で正確に診断できるのは歯科だけです。 当院では、症状を抑えるための専用の薬剤の塗布や、歯ぎしりなど根本的な原因へのアプローチも行っています。

その一瞬の「キーン!」は、あなたの歯が助けを求めている大切なSOSサインかもしれません。どうぞ、皆さんのかかりつけの歯科医院にご相談ください。
執筆・監修歯科医
その「キーン」、歯が
あなたに送るSOSかも?
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会






