はじめに:あなたの歯の中に入っている「土台」、何でできていますか?
神経を抜いた歯は枯れ木のようにもろくなり、そのままでは新しい被せ物(クラウン)を支えることができません。そのため、歯の根の中に「土台(コア)」を立てて歯を補強する必要があります。
この「土台」、実は複数の種類があることをご存じでしょうか。そして、どの素材を選ぶかが、その歯の10年後・20年後の運命を大きく左右してしまうのです。
この記事では、かつて主流だった「メタルコア(金属の土台)」と現代の主流である「ファイバーコア」の決定的な違いについて、そして、なぜ当院が20年以上も前からメタルコアの使用を完全にやめてレジン(プラスチック素材)ベースの土台だったり、保険適用になってからはファイバーコア一択にしているのか、その理由についてお話しします。


かつての「常識」― 硬くて丈夫な「メタルコア」
かつては「土台には丈夫な金属を」という考え方が間違いなく常識でした。ですが、その「硬すぎる」という長所が実は歯にとっては最大の弱点(マイナスポイント)だったのです。
これを建物の柱に例えてみましょう。柔軟性のない硬すぎるコンクリートの柱は、地震の揺れ(噛む力)が加わった時に力を逃がすことができずポキっと根元から折れてしまいますよね。
「硬すぎる」が招く最悪のシナリオ ―「歯根破折」
ご自身の歯は鉄のように硬いわけではなく、食事の際にはミクロン単位でわずかに「しなる」ことができて力を分散させています。一方で、金属であるメタルコアは全く「しなる」ことができません。
その結果、強い噛み合わせの力がかかった時、硬いメタルコアが「くさび」のようになり、周りのより柔らかい歯の根を内側からくさびのように引き裂いてしまうのです。これが、歯にとっての死刑宣告とも言える「歯根破折(しこんはせつ)」です。こうなってしまった歯は、残念ながらほぼ100%抜歯するしか道はありません。

私たちが、20年前に「メタルコア」を捨てた理由
それは、この「歯根破折」によって、本来であればまだ救えたはずの歯を抜歯せざるを得なくなった患者さんを一人でも減らしたかったから・・・です。
たとえ、それが以前の「常識」であったとしても。たとえ、メタルコアが保険適用で安価な材料であったとしても。患者さんの歯の寿命を縮めてしまう可能性のある材料を、リスクを負わせながら使い続けるわけにはいかない・・・それが、私たちの変わることのない哲学とでも言うような考え方だったのです。

新しい「常識」― しなやかに歯を守る「ファイバーコア」
メタルコアに代わり現在の世界のスタンダードとなっているのが、グラスファイバーの繊維を樹脂で束ねて作られた「ファイバーコア」です。
✅ ① 歯根破折を防ぐ「しなやかさ」
ファイバーコアの最大の特徴はその「しなやかさ」です。天然の歯とほぼ同じようにしなやかに「たわむ」性質を持っているため、強い力がかかった時もその力を歯の根全体にバランス良く分散させ歯根破折のリスクを劇的に低減させることができます。(転んでぶつけたりすれば話は別ですが・・・)
✅ ② 白く美しい(歯や歯ぐきが黒くならない)
金属を一切使わないため、メタルコアのように歯ぐきが黒ずんだり被せたセラミックから中の金属色が透けて見えたりする心配が全くありません。
✅ ③ 万が一の再治療も容易で安全
もし将来、何らかの理由で土台を外して歯の根の再治療が必要になった場合。メタルコアは硬すぎるため除去する際に歯を傷つけ割ってしまうリスクが常に伴います。一方、ファイバーコアは比較的簡単に、そして安全に除去することができます。
✅ ④ そして、保険適用です
これほど多くのメリットを持つファイバーコアですが、現在では、この治療は健康保険の適用内で受けることができます。もはや特別な理由がない限りメタルコアを選択する理由はない・・・と私たちは考えています。

あなたの歯の被せ物の中身は大丈夫ですか?
もしあなたが、過去に神経を抜く治療を受けた経験があるなら、その歯の中にはどんな「土台」が入っているでしょうか。
歯科医院を選ぶということは、その歯科医師の「治療哲学」を選ぶということです。治療に際しては必ず「ファイバーコアにして下さい!」と歯科医にお伝え下さいね。歯を守ることを第一に考える歯科医は「それしか使わないから大丈夫!」って答えてくれようかと思います。
理解の深い歯科医達は皆、目に見えない歯の内部にこそ最高の選択をしたい。そして、あなたの歯を一本でも多く一日でも長く守りたい・・・そう考えています。
執筆・監修歯科医
見えない場所にこそ
最高の選択をしたい
理事長・院長
酒井直樹
SAKAI NAOKI
経歴
- 1980年 福島県立磐城高等学校卒業
- 1988年 東北大学歯学部卒業
- 1993年 酒井歯科医院開院
- 2020年 医療法人SDC設立 理事長就任
所属学会・勉強会
- 日本臨床歯科CADCAM学会
- 日本顎咬合学会
- 日本口育協会
- 日本歯科医師会
- 日本歯周内科学研究会
- ドライマウス研究会